交通事故にはどんな保険が使えますか?
交通事故には自賠責保険、健康保険、仕事中や通勤途中では労災保険も使えます。健康保険や労災保険を使っても、求償可能であれば最終的には自賠責保険に求償します。
健康保険を使用する場合は必ず第三者行為の届け出を保険組合にしてください。
自賠責保険は交通事故の被害者救済のためにつくられた保険で、患者さんにとって納得のいく治療を受けることができます。一方健康保険は相互扶助が目的で、予防的なものや美容的なものは認められず、必要最低限の治療になります。
交通事故の健康保険使用はひき逃げや無保険(自賠責未加入)などで十分な補償を受けられないときの被害者救済のためです。いわば緊急避難的な例外的な適応です。
仕事中の交通事故では、行政機関における事務の取り扱い上は自賠先行が原則とされていますが(昭和41年12月16日基発第1305号)、患者さんに自賠責保険を強制することはできません。(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-10-05.pdf)
「交通事故の患者は3倍疲れる、だから3倍の点数でも良い。ただ、俺は3倍もらっても疲れるから、今は事故の患者を診ていない」(ある医師の意見)、交通事故患者は一般患者に比べ労力がおおく、健康保険診療では割に合わないとのまっとうな意見です。
「通常の場合には、「絶対に」自由診療によるべきです。それは、交通事故の場合には当初の検査と治療が非常に重要です。
そして、軽症と思えても、脳損傷があったり、骨折が見過ごされることもあり得ますので、色々制約がある健康保険よりも自由診療を選ぶのは当然です(ある弁護士の意見)。
「交通事故に健保が使えます」と推奨することは、三者協議会の紳士協定にも違反する暴挙そのものであります。健保を使っても被害者が治療費を支払うのでないから、被害者の損にも得にもなりません。損保会社が儲け、得をするだけです。そのことが全く触れられていません。国民共通の財産(国民から強制的に納めさせた健康保険料と国民の税金からの補填)というべき公的医療保険から、損保会社の利益のために資金を持ち出すのは如何なものでしょうか。(弁護士山中理司の交通事故相談HP(大阪)より引用)
労災保険とは?
労働者の災害保護、社会復帰を目的とした保険です。通勤途中や仕事で車を運転しているときの交通事故では労災保険も使えます。労災保険の適応があるときは、健康保険は使えませんので注意が必要です。損保の代理店や、弁護士でも通勤労災に詳しくない人が、健康保険使用を勧めてくるのでご注意ください。
通勤労災
合理的は通勤手段であれば、方法は問いません。普段はバイク通勤の人が雨の日はバス、道路工事中で迂回したときの交通事故なども認められます。
通勤の中断と逸脱について
生活上必要な中断や逸脱では、もとの通勤経路での交通事故は通勤労災として認められます。
<日常生活上必要な行為(厚生労働省令で定められた行為)の例>
•日用品を購入する
•帰途に惣菜等を購入する
•独身者が食事のため食堂に立ち寄る
•クリーニング店に立ち寄る
•選挙で投票する
•医療機関などへ通院する(人工透析のための通院を含む)
通勤労災(厚生労働省)
自賠責保険とは?
自賠責保険は他人のケガへの補償を行う保険です。自損事故でも、同乗者の家族には自賠責保険が使えます。「車の所有者」や「運転手」は運行供用者となり他人ではありません。
自賠責保険・共済を取り扱っている保険会社等の一覧(国土交通省)
自賠責保険について(日本損害保険協会)
自賠責保険の問題点は?
消費者物価指数が65.5→102.3(2022年)と上昇しているのに、昭和53年(1978年)7月1日から傷害枠が120万円で据え置かれていることです。傷害枠の引き上げをしても、医者が濃厚診療をするので引き上げても医者にいってしまうので、引き上げは反対だという意見もあるようです。ご自分が被害者になったことのない人には、120万円では不十分だということがわからないのです。
自賠責保険加入車両は?
普通のナンバープレートがついている車両は加入しています。自衛隊車両と外交官車両は加入していません。
重過失減額とは何ですか?
自賠責保険は被害者救済を目的とした保険ですので、厳密な過失相殺を行いません。しかし、被害者の過失割合が70%以上の時は傷害については20%減額されます。ただし、被害総額が20万円未満では全額、減額によって20万円を下回る場合には、20万円が支給額になります。
減額の意味は、せめて治療費ぐらいは出しましょうということだと、自賠責調査事務所の所長が以前話していました。過失割合の大きい患者さんが、慰謝料増額目的で健康保険を使うのは、法の趣旨に反すると思います。
交通事故の過失割合(東京海上日動)
自賠責保険が使えない事故は?
自賠責保険では被害者の過失(ケガをした人が被害者になります)が100%のときは、無責事故となり使えません。被害者のセンターラインオーバー、信号無視、追突などです。
赤の車の運転手は過失が100%となり、自賠責保険は使えません。赤の車の同乗者は過失がないため、赤の車の自賠責保険が使えます。
イラスト作成 深澤 直樹
自賠責保険と任意保険の違いは?
自賠責保険は強制保険と言われるように、加入義務がありほぼ100%の車が加入しています。一方任意保険は任意ですが、90%位の加入率のようです。
自動車保険にブラックリストは存在する?(グーネット買取ラボ)
自賠責保険 | 任意保険 | |
自分への補償 | なし | あり |
車両への補償 | なし | あり |
保険料 | 車種ごと一定 | 補償内容や被保険者の年齢による |
無事故割引 | なし | あり |
事故後の等級ダウン | なし | あり |
加入要件 | なし | ブラックリストで車両保険✕など (保険料未払いや、短期間の複数回事故等) |
加入率 | ほぼ100% | 88.7%* (*損害保険料率算出機構「自動車保険の概況」2022年) |
損保の一括払いとは何ですか?
一括払いとは、加害者が加入している任意保険会社が窓口となり、自賠責保険と任意保険の賠償金を一括して被害者に支払う任意保険会社のサービスです。ただし、法的に支払義務がありませんので、損保が支払わないときは、患者さんに支払義務があります。なお損保に対し診断書や明細書等、患者さんの個人情報となる診療情報を提供する場合には、同意を得ておく必要がります。
一括払いが履行されなかった場合は、治療費は患者さんに支払義務があるので、患者さんから支払同意書をとっておくなどの必要があります。同意書の見本(茨城県医師会)
治療中に任意保険会社が医療機関に直接支払いをするのは義務ではない?(たかつき法律事務所)
人身傷害保険とは何ですか?
自賠責保険が他人のケガへの補償に対して、人身傷害保険は自分のケガへの補償です。
平成11 年5 月21 日、日本医師会と東京海上火災保険株式会社は、人身傷害補償保険の約款にある努力規定の取り扱いについて、公的保険の使用を強要するものではないとの確約をし、
1.自賠責保険に関わる案件については従来と同様の取り扱いとする。
2.その旨の社内徹底を図る。
旨の文書を交わしたという経緯があります。
人身傷害保険の問題点は?
問題点は、患者さんの過失割合が大きいときに、損保が健康保険などの公的保険を強要することです。患者さんは自賠責保険の自由診療と制約のある健康保険の違いなどがわからないまま、健康保険使用を希望してきます。医療機関は、健康保険のメリット・デメリットを十分説明する必要があります。
なお、自転車と車の事故では、自転車側に自賠責保険がありませんから、損保によっては人身傷害保険を払い渋ることもありますので、注意が必要です。
東京海上火災保険が日本医師会にあてた健康保険使用を供用しない旨の回答があります。
東京海上火災保険株式会社より日本医師会宛 平 11.5.21
ご照会いただいた「TAP」の人身傷害補償保険(普通保険約款一般条項第14条(10)号)の規定は下記のように運用いたします。
記
1. 自賠責保険に係わる案件については従来と同様の取り扱いとする。
2. その旨の社内徹底を図る。
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20140129_3.pdf
損保が健康保険使用を強要してきたときは、被害者請求を勧めます。自賠責保険は加害者請求が原則ですが、加害者が被害者に賠償を行わない場合などでは被害者救済の観点から、被害者が自賠責保険会社に対して直接賠償金の支払を請求できるようになっています。
支払請求書兼指図書(グリーンリーフ法律事務所)
交通事故証明書の申請(自動車安全運転センター)
健保使用一括とは何ですか?
保険会社が、被害者に健康保険使用を誘導する手段として、窓口支払い分を保険会社が後日まとめて支払う方法です。健保使用での健保一括は健康保険法違反になる可能性が高いので注意してください。
【健康保険法第74条】
第63条第3項の規定により保険医療機関又は保険薬局から療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該給付につき第76条第2項又は第3項の規定により算定した額に当該各号に定める割合を乗じて得た額を、一部負担金として、当該保険医療機関又は保険薬局に支払わなければならない。
政府の保障事業とは何ですか?
ひき逃げや無保険車が加害車両となったときに、加害者側から賠償を受けられない場合などには、政府の保障事業に請求することができます。
政府の保障事業は、被害者が受けた損害を国(国土交通省)が加害者にかわって塡補(立替払い)する制度です。支払限度額は自賠責保険と同じですが、次のような点が自賠責保険(共済)とは異なります。
政府の保障事業(損害保険料率算出機構)
・請求できるのは被害者のみです。加害者から請求はできません。
・被害者に支払った後、政府が加害者に求償します。
・健康保険、労災保険などの社会保険による給付額(給付を受けるべき額を含みます)があれば、その金額は差し引いて支払います。
停車中のドアの開閉でおきた事故も交通事故ですか?
交通事故となり、自賠責保険が使えます。急に飛び出した車をよけて壁に激突するなど、お互いの車両が衝突しなくても、誘因事故(非接触事故)として自賠責保険が使えます。特殊な例ではパワーショベル作業中の事故でも、パワーショベルにナンバープレートがあれば自賠責保険が使えます。
自動車損害賠償保障法2条2号 この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。
自賠責保険は選定療養の対象ですか?
自賠責保険は選定療養の対象ではありません。
ただし、健康保険や労災保険を使った後に自賠責保険に請求する場合は、いったん特別な料金(先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当の料金)を支払って頂く必要があります。この場合、後日自賠責保険に請求していただくことになりますが、注意点として特別な料金に対する消費税分は患者さんに請求しないでください。
労災保険の選定療養について(厚生労働省)
交通事故治療に消費税はかかりますか?
治療費はもちろん、治療のために必要な松葉杖の賃借料やおむつ代等も非課税です。
消費税が課税となるのは、差額ベット代や診断書および医師の意見書等の作成料です。
交通事故と消費税(税金Lab税理士法人)