後遺症診断書とは何ですか?
交通事故で負った後遺障害の認定手続きに必要となる書類のことです。後遺障害等級の認定はこの診断書を元に判断されます。なお、醜状障害は基本的に書面審査ではなく医師の対面診察があるようです。
後遺症診断書はいつごろ書けば良いですか?
後遺症診断書は症状が固定(治ったとき)に記載します。切断や高次脳機能障害では早めに書くことはありますが、頚部挫傷では半年経過してからになります。
労災保険における「治ったとき」とは、その症状が安定し、医学上一般に認められた医療を 行ってもその医療効果が期待できなくなったときをいい、これをいわゆる「治ゆ(症状固定)」 といいます。
後遺障害等級(国土交通省)
後遺症診断書の記載で注意すべきことは何ですか?
事実を淡々と書くだけですが、骨折後などの関節可動域は普段の可動域を他動可動域で、医師自身が必ず計測して記入してください。また健側も必ず記入してください。なお、腱板断裂や神経麻痺では自動可動域になります。
12級や14級に該当となる頚部挫傷などでは、可動域は判断材料にはなりません。関節可動域が必要になるのは、骨折、脱臼、靱帯損傷、半月板損傷、関節唇損傷、腕神経叢損傷、腱板断裂などです。
関節可動域表示ならびに測定法(日本骨折治療学会)
症状固定の場合の転帰欄は「治ゆ」になります。弁護士は「中止」と思っておられる方もいます。ただし、「治ゆ」でも「中止」でも後遺症の認定には直接影響しません。
後遺障害診断書の既存障害とは何ですか?
交通事故で負傷する前から存在していた後遺障害を、「既存障害」といいます。既存障害は、先天性・後天性を問わず、また、交通事故によるものかどうかを問いません。
頚部で14級の既存障害があっても、腰部で14級を取得することは可能です。数年以上経過した例などで、裁判で認められれば頚部の14級が再度認められるケースもあるようです。
前の交通事故で14級が認定され、再度、今回交通事故で、同様の認定がされた場合の取扱について
後遺症の12級と14級の違いは何ですか?
局部に頑固な神経症状を残すものが12級で、局部に神経症状を残すものが14級です。12級では症状が医学的に証明できることが必要で、14級では症状が医学的に説明できることが必要です。
後遺障害等級14級とは(ベリーベスト法律事務所)
醜状障害(外貌)で注意することは?
醜状障害(外貌)では2011年に男女差がなくなりました。なお、手のひら大以上の瘢痕の「手のひら」とは指を含みません。 手のひらの大きさは個人差があり、イラストは目安です。
鶏卵大の目安5×3cm、10円玉は直径2.35cm イラスト 深澤 直樹
醜状障害(上肢・下肢)で注意することは?
労災保険と違い、上肢とは肩関節から先、下肢とは股関節から先が露出面になります。
症状改善の見込み欄の記入で注意することは?
後遺症診断は症状改善の見込みがないときにするものですから、この欄に「症状が改善する見込みがある」と後遺症の認定がされなくなります。この欄には「受傷から相当期間を経ており、症状緩解の見込みはないと考える。(損害保険料算出機構 第6版から引用)」あるいは、「上記症状を残して固定と思われる」と記入してください。
健康保険で診療した交通事故患者さんの後遺症診断書を記載する義務はありますか?
基本的にはないと思います。診断書とは、医師が診察の結果に関する判断を表示して、人の健康上の状態を証明するために作成する文書(大審院大正6年3月14日判決、刑録第23輯 179頁)です。診断書交付義務は、原則として、特定の書式での診断書作成を要求するものではないと考えます。
自賠責後遺症診断書は名称は診断書ですが、内容は鑑定書に近い印象です。
死亡診断書、出生証明書は医師法施行規則に様式が定められていますので、発行義務があります。
健康保険使用患者さんには、後遺症診断書を自院書式で書くという考えもありますが、記載様式があらかじめ定まっており、そこを埋めていくだけの後遺症診断書を記載した方が結果的には楽です。
労災保険が使えるときは、労災の後遺症診断書と自賠責の後遺症診断書の両方を書く必要がありますか?
一般的に労災認定の方が等級が高く、患者さんに有利な結果が出ます。ですから労災適応の交通事故では両方を求められることがありますので、両方とも記載します。
後遺障害認定はどれくらいの率で認定されますか?
後遺症診断書を提出しても、半数以上は非該当のようです。該当する場合でも、12級と14級が約3/4を占めます。
後遺障害認定のポイントは?
十分な通院実績(週に最低1回、できれば週に2~3回以上)、症状に一貫性がある、症状が常時あるなどのようです。また、軽微な事故(修理が20~30万円以下)では認定されにくいようです。また、小学生なども症状に一貫性があっても認定されにくいようです。
後遺症診断書を出す場合はMRIを撮像しておいた方が良いですか?
少なくともMRIを撮像してマイナスになることは少ないようです。MRIは必須ではありませんが、一般的にはやや有利になるという意見が多いようです。
後遺症診断における行政書士の役割とは?
交通事故問題の解決に必要な書類の作成は、行政書士の業務としてすることができますが、被害者に代わって、保険会社と示談交渉することはできません。後遺障害等級認定申請に詳しい行政書士はいますが、被害者請求や異議申し立ての手続を代理して進めることはできませんし、後遺障害等級認定を受けても、賠償金を巡ってのその後の保険会社との示談交渉は行えません。
費用は?
後遺障害等級認定手続き、異議申し立て手続き 10万円から(某行政書士)
成功報酬ではないので、後遺症が認定されなかった場合に費用が無駄になります。
弁護士特約は使えるのか?
事前に損保の承認があれば、使えるようです。保険会社によって異なる可能性はあります。
某保険会社の約款
弁護士費用とは、あらかじめ当会社の同意を得て弁護士、司法書士、行政書士、裁判所またはあっせんもしくは仲裁を行う機関に対して支出した弁護士報酬、司法書士報酬もしくは行政書士報酬、訴訟費用、仲裁、和解または調停に必要とした費用。
交通事故分野に関する弁護士と他士業との違い(神奈川県弁護士会)
後遺障害事前認定とは?
後遺症診断書を加害者側の任意保険会社に送り、その後の手続きを保険会社に任せる方法を事前認定と呼びます。 患者側で資料を集めたり、書類を作成する手間がかからず、非常に簡単です。一方審査対策は、被害者請求の方がしやすいようです。そこで医療機関に対して、一括を打ち切らせ健康保険の第三者行為に切り替えてから、後遺障害の被害者請求を勧める弁護士などがいます。
事前認定と被害者請求の違い(アトム弁護士法律事務所)
後遺障害診断書はいくら請求すれば良いですか?
作成にどれくらい手間隙がかかったかによると思いますが、15,000円(税別)くらいが常識の範囲内の上限のようです。当院では10,000円(税別)です。
以前自賠責調査事務所の所長さんが100,000円の請求があったと話しておりました。手間隙がかかったという根拠があれば良いと思いますが、残念ながら内容はスカスカだったようで、支払拒否されたようです。
患者さんが後遺障害に該当したかを知るにはどうしたらよいですか?
後遺症診断書を記載する際に、「私は、○○医療機関から後遺症診断の結果について、○○損保会社に問い合わせがあったときは、認定結果を教えることに同意します」という同意書を患者さんに書いてもらうことです。もう一つは「当院から電話があった際は、後遺症の認定結果について教えます」という約束を患者さんとする方法です。
弁護士から後遺症診断書の記載について指示されましたがどうしたらよいですか?
カルテに記載にのあることを淡々と書くだけです。カルテに記載の無いことは書かないでください。
後遺症認定はどこでするのですか?
後遺症認定をするのは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という機関です。自賠責調査事務所は、全国の都道府県庁所在地等に存在します。醜状障害以外は原則書面審査になります。なお、労災の後遺症認定は、労働基準監督署の調査官または医師と面談をする必要があります。
後遺障害14級ではいくらもらえますか?
75万円です。
障害内容 | 保険金(共済金)額 | |
14級 | 1. 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 2. 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 3. 1耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 4. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 5. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 6. 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの 7. 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの 8. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの 9. 局部に神経症状を残すもの | 75万円 |
虚偽の診断書を書くとどのような罰則がありますか?
- 虚偽診断書等作成罪
医師が公務所*に提出する診断書や死亡証明書などに虚偽の記載をした場合、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金(刑法160条) *役所や警察署、保健所 - 有印公文書偽造
公立病院で勤務する医師が診断書を偽造、1年以上10年以下の懲役(刑法155条) - 有印私文書偽造
民間病院で勤務する医師が診断書を偽造、3カ月以上5年以下の懲役(刑法159条)
14級の後遺障害は同一部位で自賠責保険から2回もらえますか?
自賠責保険では同一部位では1回しか認められません。しかし、裁判をおこして認められれば、自賠責調査事務所は裁判を尊重して認めるようです。5年程度期間があく必要はあるかもしれません。
鈴木・大和田法律事務所
https://szoh-law.jp/case-12/