前十字靭帯損傷|前橋市の深沢整形外科

ACL損傷

前十字靱帯損傷(ACL損傷)― 手術をしなくても大丈夫?

前十字靱帯(ACL)は、膝関節の中にある靱帯で、脛骨が大腿骨に対して前方へずれるのを防ぎ、膝の回旋方向の安定性を保つ重要な役割をしています。

前十字靱帯損傷は、サッカーやバスケットボール、スキーなどのスポーツで多く発生します。急な方向転換、ジャンプの着地、転倒などが主な受傷原因です。

前十字靱帯が断裂すると手術が必要だと思われがちですが、必ずしもそうではありません。

前十字靱帯損傷の症状

受傷時に膝の中で「ブチッ」という音や感覚が生じることがあります。その後、膝が腫れたり、痛みのために歩きにくくなったりします。

急性期には関節内出血によって膝が大きく腫れることもあります。

時間がたつと痛みや腫れが軽減することがありますが、靱帯の機能が失われている場合には、方向転換や階段の昇降などで膝がガクッと崩れる「膝くずれ(giving way)」が起こることがあります。

診断

診察では、受傷状況や膝の腫れ、不安定性などを確認します。

ラックマンテストなどの徒手検査が診断に役立ちますが、受傷直後は痛みや筋緊張のために評価が難しい場合もあります。

単純X線検査では前十字靱帯そのものは確認できませんが、骨折の有無などを調べるために行います。

靱帯損傷の確認にはMRIが有用で、合併する半月板損傷や軟骨損傷なども評価できます。

前十字靱帯が切れていても手術は必要?

前十字靱帯が完全に断裂していても、すべての患者さんに手術が必要なわけではありません。

前十字靱帯は、急な方向転換やジャンプの着地など、膝に強い回旋力が加わる動作で特に重要です。

一方、平地歩行などの日常生活動作では、前十字靱帯が断裂していても、筋力などによって膝の安定性が保たれる患者さんがいます。

そのため、次のような患者さんでは保存療法を選択することができます。

  • サッカーやバスケットボールなど、膝に強い負担がかかるスポーツへの復帰を希望していない
  • 日常生活で膝くずれが起こらない
  • 日常生活に大きな支障がない
  • 保存療法によって十分な膝の機能が得られる

ただし、受傷直後に膝くずれがないことだけで判断するのではなく、リハビリ後の膝の安定性や半月板損傷などの合併症も確認する必要があります。

保存療法では何をするのか

保存療法の中心はリハビリテーションです。

まず、膝の腫れや痛みを軽減し、膝関節の可動域を回復させます。その後、大腿四頭筋やハムストリングスなどの筋力訓練、バランス訓練を行います。

必要に応じて膝装具を使用することもあります。

保存療法によって日常生活に支障なく過ごせるようになれば、手術を行わずに経過をみることができます。

ただし、靱帯が断裂したままである場合、膝の機械的な不安定性が残ることがあります。保存療法は、必ずしも靱帯を元どおりに治す治療ではありません。

どのような場合に手術を考えるのか

前十字靱帯再建術は、主に膝の不安定性を改善するために行われます。

サッカー、バスケットボール、スキーなど、急な方向転換やジャンプを伴うスポーツへの復帰を希望する患者さんでは、再建術を検討することが多くなります。

また、スポーツを行わない患者さんでも、日常生活で膝くずれを繰り返す場合や、膝の不安定性によって仕事や生活に支障がある場合には手術を検討します。

半月板損傷などを合併している場合には、その損傷の状態も治療方針に影響します。

高齢者でも再建術は必要?

前十字靱帯再建術に明確な年齢の上限はありません。

60歳代でも再建術は行われており、75歳での手術報告もあります。

しかし、高齢者ではスポーツ活動の内容や日常生活での不安定性、変形性膝関節症の有無などを十分に考慮する必要があります。

70歳でも活動性が高く、膝くずれを繰り返す患者さんでは再建術を検討する余地があります。一方、若い患者さんでもスポーツ復帰の希望がなく、日常生活で膝くずれがなければ保存療法を選択できます。

手術をしないと将来、変形性膝関節症になる?

前十字靱帯損傷後には、長期的に変形性膝関節症が発生することがあります。

しかし、前十字靱帯再建術を行えば将来の変形性膝関節症を予防できるという確実な根拠はありません。

手術をした患者さんでも、長期的には変形性膝関節症が生じることがあります。

したがって、将来の変形性膝関節症を予防することだけを目的に、すべての前十字靱帯損傷患者さんに再建術を勧めることは適切ではありません。

ただし、膝くずれを繰り返す場合には半月板などを新たに損傷する可能性があるため、放置せずに治療方針を再検討する必要があります。

まとめ

前十字靱帯が断裂していても、必ずしも再建術が必要になるわけではありません。

スポーツ復帰の希望がなく、リハビリ後も日常生活で膝くずれがなく、生活に支障がなければ、保存療法は十分に選択肢となります。

一方、膝くずれを繰り返す場合や、方向転換を伴うスポーツへの復帰を希望する場合には、再建術を検討します。

大切なのは、MRIで前十字靱帯が切れているかどうかだけではなく、その患者さんが実際にどの程度困っているかということです。

参考文献

Frobell RB, et al. BMJ. 2013(KANON研究)

Reijman M, et al. BMJ. 2021(COMPARE研究)

AAOS ACL損傷診療ガイドライン(2022年)