骨粗鬆症の食事
健康のために健康食品は必要ありません、悪い食事を避けることが大切です
骨粗鬆症の食事ではカルシウムが大切ですが、それ以上にリンを大量に摂取すると骨が弱くなってしまいます。
体内で効率よく働くことのできるカルシウムとリンの摂取比率は1:1が理想とされています。リンは食品添加物に多く含まれているため、普段加工食品を食べる機会が多い人はリンの摂りすぎに注意が必要です。
リンは様々な食品に含まれており、不足することはまずありません。
テレビなどでは大人の事情で、身体に良いものを食べる足し算健康法が沢山紹介されます。実は身体に悪い食事を避ける引き算健康法の方が大切なのです。
リンとは Phosphorus
1669年にドイツの商人ヘニッヒ・ブラントが、錬金術の実験としてバケツ60杯の尿を蒸発させていたところ、尿の残留物からリンを発見しました。ギリシャ語で「光をはこぶもの」という意味の“phosphoros”から命名されました。Phosが「光」、phorosが「はこぶもの」の意味です。
人体中では6番目に多い元素で、体重の約1%のリンが含まれます。その85%はリン酸カルシウムの形で骨や歯に含まれます。
リンの多い食事
リンは食品添加物として多くの食品に使用されています。変色を防ぐ、保存性を高める、食品を決着させる、食品を乳化させる等便利な働きがあります。安くておいしくて日持ちするものには注意が必要です。
膨張剤、乳化剤、イーストフード、かん水、結着剤などと表記されており原材料名をみてもわかりにくいようです。
具体的には、具入りおにぎり、持ち帰り弁当、調理パン、インスタントラーメン、プロセスチーズ、ハム、ソーセージ、ベーコン、冷凍ピザ、チルドハンバーグ、練り製品(かまぼこなど)、缶詰、つくだ煮、コーンビーフ、冷凍食品、菓子パン、ビスケット、クッキー、炭酸飲料(炭酸水を除く)、コンビニのおでんなどにふくまれます。ファーストフードも注意が必要です。
わたしたちの舌は、おいしいかまずいかは教えてくれますが、身体に良いかどうかは教えてくれません。
食品添加物にリンを入れる理由
ハムやソーセージにリン酸塩を添加物として使うのは、原料である肉の水分を保つ効果があり、柔らかい食感となりおいしくなるためです。 また、防腐や色味を鮮やかにする効果もあります。
- 【乳化剤】なめらかな食感や風味の改善、老化防止などに役立ちます。プロセスチーズ類。
- 【イーストフード】発酵状態を促進させてパン生地を膨らませる力を強化し、パンにふっくらしたボリューム感を与えてくれます。パン・菓子など。
- 【かん水】中華麺等特有の風味・食感・色合いなどを出す目的で使用されます。
- 【膨脹剤・膨張剤・ふくらし粉・ベーキングパウダー】使用するお菓子に最適な温度とスピードでガスを発生させるコントロールができます。パン、菓子など。
- 【PH調節剤】保存や風味の調整のために多くの加工食品に利用されています。リン酸・クエン酸・コハク酸・酒石酸などのように様々な種類がありますが、pH調整剤として添加する場合には、一括表示が認められているため何が入っているかわかりません。
- 【ガムベース】チューインガムの噛み心地を決める素材です。
表示免除:コンビニのおでんのようにバラ売りする食品では、練り物にリンが入っていても表示の義務がありません。また、かまぼこでは原材料の魚肉のすり身にリン酸塩が添加されていても、最終的にできあがった食品への表示が免除される場合があります。
リンがなぜ悪いのか
カルシウムとリンが結びつくと、リン酸カルシウムとなり小腸で吸収されずに体の外へ出てしまいます。特に無機リンは吸収率が高いので注意が必要です。
透析患者さんでは高リン血症が続くと骨からカルシウムが溶け出し、血管に沈着します。動脈硬化と石灰化が進みます。
食品 | 吸収率 | |
有機リン (タンパク質と結合) | 植物性食品 豆類 | 20~40% |
有機リン (タンパク質と結合) | 動物性食品 魚介類、肉、卵、乳製品 | 40~60% |
無機リン | 食品添加物 かん水、膨張剤、乳化剤、結着剤 | 90%以上 |
食品添加物のリンは、茹でてもせいぜい10%程度しか減らないようです。
コーヒー Coffee
コーヒーのカフェインはカルシウムの排泄を促進させます。飲むなら1日2杯程度にしましょう。
コーヒーの飲み過ぎは記憶力を低下させます。
アルコール Alcohol
アルコールは尿をどんどん出す働きがありますので、カルシウムも尿といっしょに排泄されてしまい、カルシウムの欠乏を招きます。さらに、カルシウムが腸から吸収されるのを妨げます。
ビール大瓶1本(アルコール度数5度)、日本酒1.1合(アルコール度数15度)、焼酎なら120ml(アルコール度数25度)の量で、骨粗しょう症による骨折リスクが38%上昇し、大腿骨近位部の骨折は68%上昇した研究があります。
アルコールは少量でも脳の海馬を萎縮させ、認知症の発症リスクが増します。
少量でも毎日飲酒を続けると、高血圧になります。
飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸と女性の乳房の癌の原因になります。
喫煙 Smoking
喫煙は胃腸の働きを悪くし、カルシウムの吸収を妨げます。
また、女性にとって、骨を守る大切なホルモンであるエストロゲンの分泌を妨げます。
喫煙している人の骨折リスクは、禁煙した人や喫煙しない人の約1.3~1.8倍になるといわれています。
また、骨折した場合も治りが悪いようです。
肺、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔びくう・副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱および子宮頸けい部のがんについて、喫煙とがんの因果関係が明らかになっています。
シュウ酸 Oxalic acid
シュウ酸はほうれん草、たけのこ、煎茶に多く含まれます。また肉類にも多いようです。やはり、カルシウムと結合してシュウ酸カルシウムとなり、小腸からのカルシウム吸収が悪くなります。
カルシウムの取り方
カルシウムはなるべく、食事からゆっくり取りましょう。サプリメントなどで急激に取ると、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上昇するとの報告があります。どうしてもサプリメントから取るときは、1度ではなく何回かに分けて取りましょう。
イオン化 (活性)カルシウムは吸収が良いためサプリメントとして市販されているものがありますが、イオン化が強い為に目的地の骨に行く前に、血管に沈着して動脈硬化の原因になります。
カルシウムの吸収率
牛乳やチーズのカルシウム吸収率が高いようです。チーズを食べるときはプロセスチーズ(ナチュラルチーズを乳化剤などを加えて加熱して溶かし、再び成形したもの)でなく、ナチュラルチーズをお勧めします。
国産プロセスチーズのリン含量は輸入ナチュラルチーズの平均して2倍との報告があります。つまり、無機リンがもとの有機リンと同程度添加されているわけです。そうなると、いくらプロセスチーズにカルシウムが含有されていても、カルシウムの吸収はあまり期待できないようです。
食品 | 小松菜(煮) | いわし(焼) | 牛乳 | ゴーダチーズ |
---|---|---|---|---|
タンパク質(/100g) | 1.6g | 25.3g | 3.3g | 25.8g |
Ca(/100g) | 150mg | 98mg | 110mg | 680mg |
タンパク質(/一食) | 0.48g/30g | 12.7g/50g | 6.6g/200g | 7.74g/30g |
Ca(/一食) | 45mg/30g | 49mg/50g | 220mg/200g | 204mg/30g |
Ca吸収率(%) | 17.6 | 32.9 | 39.8 | 39.8 |
Ca吸収量(/一食) | 8.6mg | 17.6mg/50g | 87.6mg/200g | 81.2mg/30g |
高カルシウム尿について
血中のカルシウムが正常の場合は、カルシムを含むサプリメントや、砂糖、塩分の取り過ぎがないかチェックします。
尿管結石ではシュウ酸カルシウム結石が多いので、尿中カルシウムの多い方は動物性のタンパク質(シュウ酸の排泄が増える)は控えることをお勧めします。
亜鉛について Zinc
亜鉛は炉から析出するときに、ギザギザ形となることより「ノコギリの歯」の意味でzinkenと呼ばれるようになりました。日本では金属面の色が鉛に似て青白く見えることより「鉛に準ずるの」意味で命名されています。亜鉛は筋肉に60%、骨に30%含まれているといわれています。人体には、1.5~3gの亜鉛が存在します。亜鉛が欠乏すると骨量が低下し、骨粗鬆症が進行するといわれています。亜鉛不足で骨粗鬆症の薬の効果が弱い患者さんがいます。治療していても骨密度が低下する患者さんは、一度亜鉛の血液検査をしてみましょう。亜鉛は、牡蠣や肉以外ではごま、のり、ワカメ、昆布、納豆、ブロッコリーからも採取できます。
加工食品には、リン酸塩(インスタントラーメンなど)、ポリリン酸(ハム、チーズなど)、フィチン酸(漬物など)、グルタミン酸ナトリウム(化学調味料)が使われており、亜鉛の吸収を阻害したり過剰に体外へ排泄したりします。 アルコールの摂取により、亜鉛の排出量が増加します。
亜鉛欠乏症の治療薬として、ノベルジンが2017年より投与可能となりました。 血清亜鉛値には日内変動があり、午前中は高く、午後には約20%低下すると言われています。 また、食後2~3時間後に約20%低下するため、血清亜鉛値を測定する際は、早朝空腹時に採血をする必要があります。
マグネシウム Magnesium
マグネシウムは1808年にH.Davyによって発見されました。日本ではドロマイト(白雲石)という鉱物として栃木県下に大量に算出(国内総生産高の90%以上)します。
マグネシウムはすべての細胞に広く分布し、50~60%は骨に、1%は血中に存在します。人体には、約25gのマグネシウムが存在します。
骨の中にカルシウムの1/100くらいのマグネシウムが入っていて、骨の強さを保つのに役立っていると考えられています。
マグネシウムは大豆、魚介類、ナッツなどに多く含まれます。
リン(肉・肉加工食品に多く含まれる) を多く含む食品の過剰摂取もマグネシウムの吸収を妨げます。
ビタミンK Vitamin K
ビタミンKのKは <Koagulation>という血液凝固を意味するドイツ語に由来しています。
ビタミンKには血液凝固のほかに骨形成(骨をつくる骨芽細胞の働き)を促進する作用と骨吸収(骨を壊す破骨細胞の働き)を抑制する作用があります。さらに、動脈へのカルシウムの沈着を阻害して動脈硬化や心臓病を予防します。
数種類あるビタミンKのうち、栄養学的に重要なものが、ビタミンK2のメナキノン類です。
ビタミンK2は納豆に沢山含まれています。納豆の消費量が多い地方ほど骨粗鬆症による大腿骨頚部骨折が少ないようです。
納豆が苦手な方は、クロレラ、青汁、緑黄色野菜をお勧めします。
肝臓の悪い方や、抗生物質を長期に服用している方はビタミンKの吸収率が悪いようです。
牛乳 Milk
お勧めは愛と思いやりを持って育てられた牛から出る牛乳です。日本では 想いやりファームで購入できます。ただし、180mlで500円(税別)です。
もしスーパーでどの牛乳にするかを迷ったら一番高い牛乳を買ってみるのも一つの方法です。牛乳が苦手な方は、カルシウム含有量は減りますが豆乳を試してもよいでしょう。
肉 Meat
肉にしかない栄養素はありません。
年齢と共に消化能力が落ちるので、タンパク質は肉ではなく大豆などの植物性のものを勧めます。
100歳以上の長寿者が肉を沢山食べているというデータがあるようですが、だからと言って患者さんが肉を食べると長生きするわけではありません。
健康な人を2群に分けて、肉を多く食べさせる群と少なく食べさせる群で寿命がどうなるのかを研究しないとわかりません。それには莫大な費用と時間がかかるため実現がほぼ不可能なのです。
100歳以上の長寿者で肉を沢山食べる人は、肉に含まれる脂肪やたんぱく質を分解できる消化酵素の分泌量が充分か、特殊な腸内細菌叢を持っていると思われます。特殊な人のまねをしても、普通の人は病気になるだけです。ですから骨粗鬆症の患者さんが無理に肉を食べる必要はありません。なお、蒸して調理をした料理が消化に良いようです。
植物性のタンパク質(野菜にもあります)は、動物性のものと比べ量をしっかりと食べることができ、満足感を得られ、減量中などでも食事を楽しみやすいと考えられます。
骨粗鬆症の予防
骨折危険性 Frax fracture risk assessment tool
Fraxで将来10年以内の骨折の危険性が判定できます。問12の骨密度は空欄でも構いません。
10年以内の骨折危険性が15%以上の方は一度受診してみて下さい。
ステロイド性骨粗鬆症 Glucocorticoid-induced osteoporosis
経口のステロイド薬を3ヶ月以上内服する患者さんではステロイド性の骨粗鬆症に注意する必要があります。
既存骨折 | 点数 |
なし | 0点 |
あり | 7点 |
年齢 | 点数 |
50歳未満 | 0点 |
50歳から65歳未満 | 2点 |
65歳以上 | 4点 |
経口ステロイド投与量 | 点数 |
プレドニン換算5mg/日未満 | 0点 |
プレドニン換算5mgから7.5mg/日未満 | 1点 |
プレドニン換算7.5mg/日以上 | 4点 |
腰椎骨密度 | 点数 |
YAM値の80%以上 | 0点 |
YAM値の70%以上80%未満 | 2点 |
YAM値の70%未満 | 4点 |
YAM値はyoung adult meanのことで20~44歳の健康な方の骨密度を100%としています。
既存骨折とはステロイド服用後に起こった骨折をさします。
注射のステロイドに関してはエビデンスはありませんが、なるべく少量のステロイドが良いでしょう。
妊娠とステロイド性骨粗鬆症
2008年までのレビューにおいて,妊娠前あるいは妊娠中のビスホスホネート製剤の投与例が51例ありましたが,児の奇形や骨格異常はなかったと報告されています。
ACR (アメリカリウマチ学会 American College of Rheumatology )勧告では既存骨折があり,高用量ステロイド(プレドニン換算7.5mg/dl以上)を内服している閉経前女性に限ってアレンドロネート(A),リセドロネート(C),テリパラチド(C)を推奨しています。
丈夫な骨を作ってからの妊娠が望ましいと思いますが、出産後の脊椎圧迫骨折などを考えれば、妊娠まではアレンドロネートなどの投与を考えて良いのではないでしょうか。
出産後骨粗鬆症・椎体骨折の予防につい(慶應義塾大学)
参考
長寿村の食習慣 Food Habits in Longevity Village
- 肉はほとんど食べないか、とっても少量。
- 肉はほとんど食べないか、とっても少量。
- 大豆またはその加工品をとる。
- 穀類は雑穀か未精白でとる。
- 砂糖をとるときはごく少量、黒砂糖で。
- 油は植物油で。
- 日本の長寿村は必ずゴマをとっている。
- 野菜を十分に、特にニンジン、かぼちゃなど色のついた野菜を。
- 日本の長寿村は海草を必ず摂っている。
- 塩分は少なく。
- 自然の食品を多く。
- バランスのとれた低カロリー食を。
- よく歩き適度の運動を毎日。
- ストレスのない生活。
近藤正仁(東北大学名誉教授 1893-1977)
大豆は筋力アップや関節炎にも効果があります。
ゴマは動脈をきれいにする働きがあります。また、ゴマに含まれるアントシアニンは視力を向上させるにも役立ちます。
人参 Carrot
欧米の自然療法医が万病の妙薬として絶賛するにんじん。その大きな理由として、人体が必要とするビタミンやミネラルのほとんどすべてを含有し、栄養的にももっともバランスの取れた野菜であることがあげられます。
学名の(daukos)もギリシャ語の「温める」から由来しているとされているように、にんじんは身体を温め健康を増進する最上の野菜と言われています。
ミネラルとしては強力な浄化力をもつイオウ、塩素、リンが多く含まれ、胃腸肝臓を浄化する作用に優れており、ビタミンとしてはAが多く、視力の回復、その他の眼の病気に、またカルシウム、リンの含有量も多いため、歯や骨を形作るために有効です。
野菜の食べ方
野菜の根(芋、大根、にんじん、レンコン)、茎、葉、実(大豆、かぼちゃ)を欠けることなく食べること。そうすることによって緑、黄、赤の三色を食べることになるそうです。
血液検査 Blood test
何らかの事情で内科などで血液検査をされる患者さんは、採血項目にアルブミン、カルシウム、血清リンを加えてもらって下さい。検尿でも尿中カルシウムと尿中クレアチニンを測定することをお勧めします。
前橋市の特定検診には上記の項目のうちアルブミン以外はありませんのでご注意下さい。
骨密度を測りましょう
骨粗鬆症検診はもとより、妊娠・出産・授乳の前には骨密度検査をしましょう。
骨粗鬆症の予防
小さく生まれると、骨粗鬆症になりやすい
小さく生まれると最大骨密度が小さくなります。また閉経年齢も早くなります。
他の生活習慣病(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症)にもなりやすいようです。
体内で赤ちゃんが大きくなるには、標準体重をキープしましょう
日本では「小さく生んで大きく育てる」のが良いと一部で言われてきましたが、考え直す必要があります。
日本の若い女性はやせ願望が強く、10~20歳代女性の4~5人が「やせ」であってその割合は徐々に増えています。やせて体脂肪が少ないと、女性ホルモンの分泌が減るため、骨の成長が妨げられ、将来の骨粗鬆症リスクになります。
骨粗鬆症の薬は継続が必要です。当院では受診の必要な患者さんには電話(080-4947-7866)やショートメールで連絡をしております。
医療法人桐の葉会 深沢整形外科
TEL 027-220-5277