電子カルテ今昔物語

以前、電子カルテを検討していた頃、どのような製品があるのか自分なりに一覧を作ったことがあります。

久しぶりにその一覧を見つけたので、現在どうなっているのか調べてみました。

当時は、SUPER CLINIC、Ai・CLiNiC、MRN、Medicom、BrainBox、HOPE、Hi-SEED、TOSMEC、SimCLINIC、Dr.Simpty、ドクターソフト、Qualis、WATATUMI、E-Eggなど、多くの電子カルテがありました。

大手メーカー製だけでなく、手書き型、FileMaker型、クラウド型、ORCA連携型、眼科・産婦人科・精神科などの専門科向けまで、実にさまざまでした。

20年以上生き残っている電子カルテもある

改めて調べてみると、現在でも販売が続いている製品はかなりあります。

SUPER CLINIC、Ai・CLiNiC、MRN、BrainBox、HOPEシリーズ、Dr.Simpty、ドクターソフト、Qualis、Sparrow、RACCO、Mac24、M3デジカル、CLIPLA、CLINICS、REMORAなどです。

何十年も同じ系列の製品を改良しながら維持しているメーカーもあり、電子カルテとしてはかなり長寿と言えるでしょう。

一方、同じ製品名は消えても、後継製品へ世代交代している例もあります。

Medicomは世代交代を重ね、BrainBoxもバージョンアップを続けています。BMLのQualisにもクラウド版があり、従来製品を引き継ぐ形で進化しています。

このような場合は、「電子カルテがなくなった」というより、メーカーがユーザーやデータを引き継ぎながら世代交代したと考える方がよいと思います。

会社が変わっても製品が残る場合もある

電子カルテでは、会社そのものや事業主体が変わることもあります。

開発会社が事業を終了しても、電子カルテ事業だけが別会社へ譲渡され、サービスが継続されることがあります。

診療所向け電子カルテ部門が他社へ売却され、その後も製品やサポートが継続される例もあります。

利用者にとって重要なのは、メーカー名そのものより、

「事業が誰に引き継がれるのか」

「これまでのデータをそのまま使えるのか」

という点なのかもしれません。

大企業の製品だから安心とは限らない

反対に、会社そのものは存続していても、製品が終了する例もあります。

電子カルテ市場には、大企業が鳴り物入りで参入したものの、その後販売されなくなった製品もあります。

大阪府保険医協会の調査でも、NTT東日本、島津メディカル、BMLなどの製品利用者から、代替サービスや他社製品への移行を打診され、移行費用を心配する声が寄せられたとされています。

つまり、

「大企業だから20年後も安心」

とは必ずしも言えません。

これは電子カルテ選びの難しいところです。

専門科用電子カルテも例外ではない

専門科用電子カルテでも同様です。

例えば眼科では、長年使用していたシステムについて保守終了を通知され、新しいシステムへの移行を迫られたという話があります。

専門科用電子カルテは、一般的なカルテ機能に加えて検査機器との連携などが複雑です。

そのため、別製品への移行となると、単にパソコンを買い替えるようにはいきません。

場合によっては多額の費用が必要になります。

私自身も電子カルテの入れ替えを経験した

私自身も電子カルテについては少々経験があります。

以前はWinMedicalという電子カルテを使用していました。

その後、販売・保守体制が変わり、最終的には別の電子カルテへ移行しました。

電子カルテでは、メーカーが倒産しなくても、

・事業譲渡
・販売会社の変更
・保守体制の変更
・製品終了

などによって、これまでと同じように使い続けられなくなることがあります。

実際に電子カルテを入れ替えてみると、過去データを閲覧できることだけでは十分ではありません。

例えば、以前の処方を簡単に呼び出せる「Do処方」が使えなくなると、日常診療にはかなり時間がかかります。

そのため私は、入れ替え時にはORCAを利用する電子カルテを選びました。

電子カルテは患者数が増えてからが本番

デモ機では非常に軽快に動いていたのに、実際に何年も使って患者データが増えてくると動作が重くなる電子カルテもあります。

電子カルテは導入直後の速さだけでは評価できません。

10年分、20年分の患者データが入ったときに、

「同じようにサクサク動くのか」

という点も重要です。

これは短時間のデモでは分かりにくいところです。

サーバー更新費用にも注意が必要

オンプレミス型電子カルテでは、数年ごとにサーバーの更新が必要になります。

その際、数百万円という見積もりが出てくることもあります。

私自身、サーバー更新の見積もりを見て感じたのは、医療機関側もある程度の知識を持っていないといけない、ということです。

「なぜこのCPUが必要なのか」
「なぜこれだけのメモリが必要なのか」
「一般的な市場価格はいくらなのか」

をまったく知らなければ、提示された見積もりが妥当なのか判断できません。

日々の診療や診療報酬関係の報告などで忙しい医療機関にとって面倒な作業ですが、一手間かけて調べる価値はあると思います。

電子カルテの更新料、毎月の保守料、サーバー入れ替え費用まで含めると、

「その費用でパート職員を1人雇えるのではないか」

と思うこともあります。

そうなると、電子カルテによる省力化というメリットも少し考え直す必要があります。

クラウド型なら安心なのか

最近はクラウド型電子カルテが増えています。

院内にサーバーを置かなくてよく、バックアップやサーバー保守から解放されるのは大きなメリットです。

一方で、クラウド型には別のリスクがあります。

クラウド側で障害が発生すれば、自院のパソコンもネットワークも正常なのに電子カルテを使えなくなることがあります。

通信回線に障害が起きても同様です。

そのため最近では、

・障害時にローカルでカルテを閲覧できる
・予備回線へ切り替えられる
・一定期間のデータを院内にも保持する

といった仕組みを特徴としている製品もあります。

オンプレミス型なら自院サーバーの故障リスクがありますが、

・予備サーバー
・バックアップ
・UPS
・予備端末

など、自分たちで対策を考えることができます。

クラウド型ではハードウェア管理から解放される代わりに、

「サービス提供会社」
「データセンター」
「通信回線」
「サービスそのものの継続性」

に依存することになります。

紙カルテは意外に強い

「実績・安定性・安全性・継続性では、最強は紙カルテではないか」

という意見もあります。

確かに、紙カルテにはカルテ棚が必要ですし、カルテを探したり運んだりする手間があります。

しかし、電源もサーバーもネット回線も必要ありません。

停電しても読めます。

パソコンが故障しても読めます。

水害にも弱そうですが、紙は濡れても乾燥させれば読める場合があります。

東日本大震災の津波で被災した医療機関でも、レセコンは使用不能になった一方、濡れた紙カルテを乾燥させ、交換したレセコンへ再入力して請求できたという話もあります。

電子機器は水に浸かれば復旧不能になることがあります。

もちろん紙カルテにも火災、紛失、保管場所などの弱点がありますが、「データを何十年残す」という点では、実は非常に強い媒体なのかもしれません。

医療DXが電子カルテの寿命を短くする可能性も

最近は国が医療DXを強力に進めています。

電子カルテ情報共有、標準化、電子処方箋など、新しい仕組みへの対応が次々に求められています。

これは医療機関側だけでなく、電子カルテメーカー側にも大きな開発負担になります。

利用者の少ない旧製品に対して、多額の開発費をかけて新しい標準仕様へ対応させるより、

「この製品は終了し、新製品へ移行してください」

という判断になることもあるでしょう。

もし医療DXがなければ、もう少し長く使えた電子カルテもあったのかもしれません。

電子カルテ選びで本当に見るべきもの

今回、昔作った電子カルテ一覧を調べ直して感じたのは、

「電子カルテを選ぶというのは、機能や値段を比較するだけではない」

ということです。

導入前には、少なくとも次のような点まで確認した方がよいと思います。

・10年、20年後まで会社や事業が存続する可能性
・製品終了時に後継製品へデータを移行できるか
・サービス終了時にカルテデータをどの形式で取り出せるか
・過去カルテをメーカーなしでも閲覧できるか
・第三者による保守が可能か
・患者数が増えた後も動作速度を維持できるか
・災害や通信障害時にカルテを閲覧できるか
・サーバー更新や保守費用が今後どの程度かかるか

電子カルテは、パソコンや家電製品を買うのとは全く違います。

一度使い始めれば、患者さんの何十年分もの診療情報を預けることになります。

「安い」
「高機能」
「クラウドだから安心」
「大企業だから安心」

というだけでは、十分ではありません。

昔作った数十種類の電子カルテの一覧を今改めて見直してみると、

元気に生き残っているもの、
名前を変えて成長しているもの、
別会社へ引き継がれたもの、
静かに消えたもの、
そしてこれから終了するもの。

まさに「電子カルテ今昔物語」でした。

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