医療費削減は本当に医療費を減らすのか?―湿布とOTC類似薬の保険給付を考える

日本では医療費の増加が問題となり、さまざまな医療費削減策が検討されています。

その一つが、湿布薬などのOTC類似薬について、保険給付を見直すというものです。

しかし、湿布薬の患者負担を増やすことで、日本の医療費問題はどの程度改善するのでしょうか。

私は以前から、医療費を削減するのであれば、どこに医療費が使われているのかを理解したうえで、その効果と影響を考える必要があると思っています。

1.医療費は一部の患者に集中している

以前、長崎県医師会の資料「レセプトから見た医療費」を読んで、興味深い数字を知りました。

その資料によると、医療費の分布は次のようになっていました。

  • 医療費が高額な上位1%の患者が、医療費全体の約4分の1を使用している。
  • 上位10%の患者が、医療費全体の約3分の2を使用している。
  • 残りの90%の患者の医療費をすべて合計しても、全体の約3分の1にとどまる。

つまり、医療費はすべての患者に均等に使われているわけではなく、一部の患者に集中しているということです。

なお、これは過去の資料に示された数字であり、現在の全国の医療費について、そのまま当てはめられるものではありません。

それでも、医療費を考えるうえで重要な視点だと思います。

参考:長崎県医師会「レセプトから見た医療費」(PDF)

2.なぜ一部の患者に医療費が集中するのか

医療費が高額になる患者には、重い病気で入院や手術が必要な人、長期間の治療を受けている人などが含まれます。

がんの治療、集中治療、人工透析などでは、多額の医療費が必要になることがあります。

長崎県医師会の資料では、医療費が高額だった患者を追跡すると、その多くが亡くなっていたとも述べられています。

ただし、具体的な調査方法や追跡期間が分からないため、この記述だけから高額医療と死亡との関係を一般化することはできません。

また、高額な医療費が使われているからといって、その医療が無駄であるわけではありません。

重症患者の命を救うために、多額の医療費が必要になることは当然あります。

重要なのは、医療費が高額であることと、医療費が無駄に使われていることは別の問題だということです。

3.湿布薬を保険から外せば医療費は減るのか

整形外科では、湿布薬などの鎮痛消炎外用薬を日常的に処方しています。

以前から、湿布薬を保険給付の対象から外すべきだという議論がありました。

確かに、湿布薬の保険給付を減らせば、その分の保険財政の支出は減少します。

しかし、それによって医療費全体がどの程度減るのかは、別に検討する必要があります。

また、患者さんの負担が増えるだけで、医療に必要な費用そのものが減るとは限りません。

例えば、これまで保険診療で湿布薬を使用していた患者さんが、同じ薬を自費で購入するようになれば、保険給付は減少します。

しかし、社会全体で見れば、薬の費用を保険者から患者さんへ移しただけという側面もあります。

保険財政の支出削減と、社会全体の医療関連費用の削減は、区別して考える必要があります。

4.2027年3月からOTC類似薬の患者負担が増える

2027年3月1日から、OTC類似薬の一部保険外療養制度が始まります。

対象となるのは、市販薬との代替性が特に高いとされた77成分、1,042品目です。

対象薬を保険診療で処方した場合、原則として、通常の保険診療の自己負担とは別に、薬剤費の4分の1に相当する負担が患者さんに求められます。

対象には、ロキソプロフェンなどの鎮痛薬や鎮痛消炎外用薬、抗アレルギー薬などが含まれています。

ただし、すべての患者さんが追加負担の対象になるわけではありません。

子どもや特定の疾患を有する患者さん、処置・手術に伴う使用など、一定の条件では別途負担の対象外となります。

詳しくは、厚生労働省「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しについて」をご覧ください。

5.患者負担を増やすことと、医療費を減らすことは違う

今回の制度には、保険料負担の増加を抑えることや、市販薬を自費で購入している人との公平性を確保するという目的があります。

その考え方自体には、理解できる部分もあります。

しかし、患者さんの自己負担を増やすことが、必ずしも医療全体の効率化につながるとは限りません。

例えば、患者さんが追加負担を避けるために、医師が必要と判断した薬を使用しなくなれば、症状が悪化する可能性があります。

一方で、医学的に必要性の乏しい薬の処方が減るのであれば、医療費削減につながる可能性もあります。

つまり、患者負担の増加によって、必要性の低い医療が減るのか、それとも必要な医療まで控えられるのかが重要なのです。

この違いを検証しなければ、制度の評価はできないと思います。

6.安い医療を削減することで、高い医療が必要になることもある

医療費を削減する際に、もう一つ考えたいことがあります。

それは、初期の医療を抑制することが、結果的に高額な医療につながる可能性です。

例えば、患者さんが医療費の負担を心配して受診を控え、病気の発見が遅れれば、後になって入院や手術が必要になることも考えられます。

もちろん、早期に受診すれば必ず医療費が安くなるというわけではありません。

早期発見によって治療成績が改善しても、医療費全体が減少するとは限らないからです。

しかし、医療費削減策を評価する際には、目先の支出だけでなく、その後の健康状態や医療費への影響まで考える必要があります。

安い医療を減らした結果、高い医療が必要になるのであれば、医療費削減策として成功したとは言えないでしょう。

7.本当に削減すべきなのは、必要性の低い医療ではないか

私は、医療費を削減すること自体に反対しているわけではありません。

限られた財源を有効に使うことは重要です。

ただし、削減するのであれば、単に薬価が安い、使用頻度が高い、患者数が多いという理由だけで対象を選ぶべきではないと思います。

医学的な必要性が乏しい検査や治療、効果が十分に確認されていない医療、重複した処方などについては、見直す余地があるでしょう。

一方、安価であっても患者さんの症状を改善し、日常生活を支える治療には価値があります。

湿布薬についても、必要性の低い漫然とした処方と、症状の緩和に役立っている処方は区別して考えるべきです。

問題にすべきなのは、薬が安いか高いかではなく、その医療に必要性と効果があるかどうかです。

8.まとめ

医療費は、一部の重症患者に集中する傾向があります。

だからといって、軽症患者に使われる医療費を削減しても意味がない、というわけではありません。

しかし、湿布薬などのOTC類似薬について患者負担を増やすだけで、日本の医療費問題が大きく改善するとは考えにくいと思います。

保険給付を減らせば保険財政の支出は減りますが、その一部は患者さんの負担に移るだけかもしれません。

また、必要な医療まで控えられるようになれば、患者さんの健康に悪影響が生じる可能性もあります。

医療費削減策は、削減できた金額だけでなく、患者さんの健康や医療の質、将来の医療費への影響も含めて評価すべきでしょう。

私の結論は、湿布を保険から外すことが医療費削減の本質ではない、ということです。

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