単純性股関節炎の現在の英語名は transient synovitis of the hip、直訳すれば「股関節の一過性滑膜炎」です。
日本語の「単純性股関節炎」はこの直訳ではなく、古くから使われていた coxitis simplex に由来する名称と考えられます。1930年代の英語文献でも、coxitis serosa seu simplex、coxitis fugax、transitory arthritis of the hip など、さまざまな名称が使われていました。その後、病変の主体が股関節の滑膜にあり、一過性に経過することから transient synovitis という名称が一般的になったようです。
ここでいう simplex は、病気が軽いとか、原因が単純だという意味ではなく、結核性股関節炎や化膿性股関節炎などとは異なる、原因のはっきりしない非特異的な股関節炎という意味合いで使われていたものと思われます。
病態をそのまま表すのであれば、「一過性股関節滑膜炎」の方が分かりやすいと思いますが、日本では歴史的な「単純性股関節炎」という名称がすっかり定着しています。
問題はその原因です。
現在でも原因は明らかになっていません。感染、外傷、アレルギーなど、昔からさまざまな説があります。上気道感染などの後に発症する症例があることから、感染後の反応、特にウイルス感染との関連がしばしば説明されています。しかし、特定のウイルスが原因であることが証明されたわけではありません。
「風邪の後に発症することが多い」という観察と、「感染がこの病気を起こしている」ということは、同じではありません。
私はむしろ、感染が主要因なのではなく、オーバーユースによって股関節滑膜に一過性の炎症が生じる病態ではないかと考えています。
オーバーユースというと、「前の日にたくさん走った」「急に運動量が増えた」といった発症直前の出来事を考えがちですが、必ずしもそうではありません。
疲労骨折と同じで、1回ごとの負荷は特別大きくなくても、日々繰り返される負荷が組織の修復能力を少しずつ上回れば、ある時点で症状として顕在化します。発症した日の運動量が普段と同じだったからといって、オーバーユースを否定することはできません。
実際、単純性股関節炎は活発に動く年齢の小児に多く、安静によって短期間に改善します。この臨床像は、少なくともオーバーユースという仮説と矛盾しないように思います。
もちろん、これは現時点では私の仮説です。感染後に発症する症例があることも事実ですし、オーバーユース説を証明するデータもまだありません。
ただ、「風邪の後に起こることがある」というだけで感染関連説が長く受け継がれてきたのであれば、本当にそうなのかを一度きちんと検証してみる価値はあると思っています。
自分が生きているうちに、少なくとも感染関連説が主要因ではないことを示し、オーバーユース仮説を検証できればと思っています。

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