労災保険で診療している患者に院外処方箋を交付した場合、薬剤の適応や医学的必要性に問題があると、調剤を行った保険薬局が薬剤費の査定を受けることがあります。
しかし、処方内容を決めたのは医師であり、薬局は医師の処方箋に基づいて調剤しています。
特に、薬局が医師に疑義照会を行い、それでも医師が処方の継続を指示した場合、薬剤費の査定による損失を薬局だけが負担するのは妥当なのでしょうか。
今回は、労災保険における院外処方薬の査定と、処方医療機関・薬局それぞれの責任について考えてみます。
1.労災保険では院外薬局が薬剤費の査定を受けることがある
労災保険では、業務上または通勤による傷病の治療に必要な医療が給付の対象になります。
医療機関が院外処方箋を交付した場合、薬局はその処方箋に基づいて調剤し、薬剤費などを請求します。
ところが、処方薬が労災傷病の治療に必要とは認められなかった場合や、承認された効能・効果から外れている場合には、薬局の請求が査定されることがあります。
つまり、医師が処方した薬剤であっても、実際に薬剤費の査定を受けるのは院外薬局という場合があるのです。
もちろん、医師が処方した薬剤がすべて無条件に認められるわけではありません。
しかし、薬局が処方内容を自由に変更できるわけでもありません。
ここに、院外処方特有の問題があります。
2.骨折にプレガバリンを頓服で処方した場合
プレガバリンは、神経障害性疼痛などに使用する薬剤です。
通常の骨折に伴う侵害受容性疼痛に対して、一般的な鎮痛薬と同じように使用する薬剤ではありません。
また、プレガバリンは通常、継続的な投与によって効果を評価する薬剤であり、一般的な鎮痛薬のような頓服使用は想定されていません。
例えば、骨折による疼痛に対して、神経障害性疼痛を示す所見がないにもかかわらず、プレガバリンを頓服で処方した場合です。
このような処方では、薬剤の適応と投与方法の両面から、医学的必要性が問題になる可能性があります。
ただし、骨折に神経損傷が合併し、神経障害性疼痛が認められる場合には、プレガバリンの使用を検討する余地があります。
問題なのは骨折という病名そのものではなく、神経障害性疼痛などの適応病態が存在するかどうかです。
3.急性期の骨折にトラマドール製剤やノルスパンテープを処方した場合
トラマドール製剤は、製剤によって効能・効果が異なります。
例えば、トラマドール単剤の一部製剤では、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な疼痛が適応とされています。
一方、トラマドール・アセトアミノフェン配合剤では、非がん性慢性疼痛や抜歯後疼痛などが適応となっています。
したがって、トラマドール製剤を一括して「慢性期以外は適応外」と判断することはできません。
重要なのは、実際に処方した製剤の効能・効果です。
また、ノルスパンテープは、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な変形性関節症や腰痛症に伴う慢性疼痛などを対象とする薬剤です。
通常の急性期骨折による疼痛に対して処方した場合、承認された効能・効果との関係が問題になります。
「強い痛みがあるから」という理由だけで、すべての鎮痛薬を使用できるわけではありません。
4.ロコアテープやジクトルテープを骨折に処方した場合
外用鎮痛薬にも、それぞれ承認された効能・効果があります。
例えば、ロコアテープは変形性関節症における鎮痛・消炎を目的とする薬剤です。
したがって、単なる骨折部の疼痛に対して処方した場合には、承認された効能・効果との関係が問題になります。
また、ジクトルテープも、一般的な外用NSAIDsと同じように、あらゆる運動器疾患に使用できるわけではありません。
実際の適応は製剤の添付文書で確認する必要があります。
例えば、労災による橈骨遠位端骨折に対して、骨折部の疼痛を目的にロコアテープを処方した場合、単に骨折という病名だけでは薬剤の適応を説明できません。
労災保険であるか健康保険であるかにかかわらず、薬剤の承認効能・効果を確認することが基本です。
5.骨折にビタミンCを処方した場合
骨折患者にビタミンCを処方する例もあります。
ビタミンCはコラーゲン合成などに関与するため、骨折の治癒にも何らかの役割があると考えられます。
しかし、ビタミンCが骨折治癒を促進するという十分な臨床的根拠があるわけではありません。
また、ビタミンC製剤の承認効能・効果には、ビタミンC欠乏症や、需要が増大して食事からの摂取が不十分な場合などがありますが、一般的な骨折治癒促進は含まれていません。
したがって、ビタミンC欠乏症などの適応がない患者に、単に「骨折を早く治すため」という理由でビタミンCを処方した場合には、査定の対象となる可能性があります。
なお、骨折患者にビタミンCを投与することについては、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の予防効果を検討した研究があります。
しかし、これは骨折治癒の促進とは別の問題であり、研究報告が存在することだけで、直ちに保険適用が認められるわけではありません。
6.薬局が疑義照会しても医師が処方を変更しなかった場合
ここが最も重要な問題です。
例えば、労災による骨折患者に対して、適応に疑問のある薬剤が処方されたとします。
薬局の薬剤師が添付文書などを確認し、処方医に疑義照会を行いました。
しかし、医師から「そのまま調剤してください」と回答があった場合です。
薬剤師法第24条では、処方箋中に疑わしい点がある場合、処方医などに問い合わせて確認した後でなければ調剤してはならないとされています。
薬局が疑義照会を行うのは、法律上の義務でもあります。
しかし、疑義照会を行い、医師が処方継続を指示したからといって、その薬剤が保険適用上認められることまで保証されるわけではありません。
薬局が処方どおりに調剤した結果、薬剤費を査定される可能性は残ります。
また、疑義照会を行ったという事実だけで、薬局の責任がすべて免除されるとも限りません。
7.薬局が査定された場合、医療機関に請求できるのか
では、医師の処方に従って調剤した薬剤が査定された場合、薬局はその損失をすべて負担しなければならないのでしょうか。
私は、必ずしもそうではないと考えます。
労災保険における薬剤費の査定は、労災診療費として請求した費用が認められるかどうかという問題です。
一方、査定によって生じた損失について、薬局が処方元の医療機関に民事上の請求を行えるかどうかは、別の問題です。
例えば、薬局が適応上の問題を具体的に指摘して疑義照会を行ったにもかかわらず、医師が処方の継続を指示し、その結果、薬局が薬剤費の査定を受けた場合です。
このようなケースでは、処方元の医療機関に対して損害賠償などを請求できる余地があると考えられます。
ただし、薬局が査定されたからといって、医療機関に当然に支払義務が発生するわけではありません。
実際に請求が認められるかどうかは、処方内容の適切性、疑義照会の内容、医師の回答、薬局側の判断、損害との因果関係などによって異なります。
また、薬局にも処方内容を確認する責任があります。
したがって、医師が処方したという理由だけで、すべての責任を医療機関に転嫁できるわけでもありません。
8.疑義照会の記録が重要になる
薬局が医療機関に疑義照会を行った場合、その内容を記録しておくことが重要です。
特に、薬剤の効能・効果や保険適用について疑義照会した場合には、単に「医師確認済み」と記載するだけでは不十分なことがあります。
例えば、次のような事項です。
- どの薬剤について、何を問題として疑義照会したのか。
- 薬剤の承認効能・効果について確認したのか。
- 医師はどのような理由で処方継続を指示したのか。
- 薬局はその回答を踏まえて、どのように判断したのか。
こうした記録は、査定に対する再審査請求や、医療機関との責任関係を検討する際にも重要になると考えられます。
9.処方する医師にも責任がある
院外処方では、薬剤を調剤するのは薬局ですが、処方内容を決定するのは医師です。
したがって、処方薬が適応外であったり、労災傷病の治療に必要とは認められなかったりした場合、その問題を薬局だけの責任とするのは適切ではありません。
特に、薬局から具体的な疑義照会を受けているにもかかわらず、十分な医学的理由を示さずに処方継続を指示した場合には、処方医療機関側の責任が問題になる可能性があります。
一方、薬局も、医師の指示があればどのような処方でも調剤してよいというわけではありません。
医師には適切に処方する責任があり、薬剤師には処方内容を確認して適切に調剤する責任があります。
院外処方では、この両者の責任を区別して考える必要があります。
まとめ
労災保険では、院外処方薬が適応外であったり、労災傷病の治療に必要とは認められなかったりした場合、調剤した薬局が薬剤費の査定を受けることがあります。
しかし、処方内容を決定したのは医師です。
特に、薬局が適応上の問題を指摘して疑義照会を行い、それでも医師が処方の継続を指示した場合、査定による損失を薬局だけが負担すべきなのかという問題が生じます。
労災保険で薬剤費が査定されたことと、その損失について医療機関に民事上の請求ができるかどうかは、別の問題です。
薬局が査定を受けたとしても、医療機関に対する民事上の請求権が当然に消滅するわけではないと考えます。もっとも、実際に請求が認められるかどうかは、処方内容、疑義照会の経緯、医師と薬剤師それぞれの責任などによって判断されます。
ただし、請求が認められるかどうかは個別の事情によって判断されます。
院外処方だからといって、処方医が薬剤費の査定について無関係でいられるわけではないと思います。

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