以前の集団的個別指導で、『労災と分かっていて健康保険で診療すれば保険医停止になり得る』という趣旨の説明を受けた記憶があります。ただし、私が調べた範囲では、それだけを理由に保険医停止・取消となった具体的な公表事例は確認できませんでした。
ただ、少なくとも厚生労働省は、業務中や通勤途中のケガについて「健康保険は使えません」と明確に案内しています。業務災害・通勤災害であるにもかかわらず健康保険を使った場合には、後から労災保険への切替え手続きが必要になります。
「会社に聞いてください」で終わってよいのか
仕事中のケガについて、
「私には労災かどうか判断する権限はありません。会社に帰って、労災にするかどうか相談してください」
という対応を聞くことがあります。
確かに、労災に該当するかどうかを最終的に決定するのは医療機関ではありません。しかし、だからといって会社が決めるわけでもありません。
厚生労働省は、労災保険給付について、労働者本人が請求し、労働基準監督署長が支給・不支給を決定すると明記しています。会社が「労災ではない」と言っても、労働者本人は労災申請できます。事業主証明を得られない場合でも請求は可能です。
「労災にすると会社に迷惑がかかるから健康保険で」はできない
実際の診療では、
「会社から労災にしないでくれと言われた」
「会社ともめたくないので健康保険にしたい」
という患者さんもいます。
しかし、業務上の災害であれば、患者さんや会社の希望だけで健康保険と労災保険を自由に選べるわけではありません。
医療機関としては、受傷状況を聞き、業務災害の可能性が高ければ、そのことを患者さんに説明する必要があります。
真面目に労災を勧めると評判が悪くなる?
以前、患者さんから、
「深沢整形外科に行くと、何でも労災になるから行くな、と会社から言われた」
と聞いたことがあります。
その患者さんは、「会社の言うことが気に入らないので、あえてこちらを受診した」と話していました。受傷状況を確認すると、実際に労災として扱うべきケースでした。
労災を適切に案内すると、会社側から敬遠されることがあるのかもしれません。
しかし、それを理由に医療機関が受傷状況をあえて詳しく聞かない、あるいは業務災害の可能性に気づきながら健康保険で処理する、というわけにはいきません。
もちろん、どこまで事情を掘り下げるかはケースバイケースです。ただ、少なくとも
「どこで、何をしていて、どのようにケガをしたのか」
という基本的な問診は必要です。
労災かどうかを最終的に決めるのは労働基準監督署です。会社の意向や患者さんの希望だけで健康保険に切り替えるのではなく、業務災害の可能性がある場合には、まず労災保険としての手続きを検討するのが適切だと思います。

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