受診遅れの警察用診断書はどう書くべきか?

交通事故から数日、場合によっては数週間たってから初めて受診し、「警察に提出する診断書を書いてください」と求められることがあります。

受傷直後から診察している患者であれば比較的書きやすいのですが、初診が大幅に遅れた場合は事情が違います。

特に注意したいのは、警察用診断書に記載する「全治○週間」「○週間の加療を要する見込み」という期間が、実際の通院期間を表すだけではなく、交通事故による傷害の程度を判断する資料として、行政処分や刑事手続きにも利用され得ることです。

警察用診断書の「○週間」は実際の通院期間とは違う

交通事故の患者さんから、

「全治4週間と書いてあるのだから、4週間で治療を終わらせるのですか」

と聞かれることがあります。

そうではありません。

診断書に記載する期間は、診察時点で医学的に判断した傷害の程度を示すもので、実際に何週間、何か月通院するかとは必ずしも一致しません。

骨折であれば骨癒合まで数か月かかることもありますし、捻挫や打撲でも疼痛が長く残ることがあります。

一方、交通事故の行政処分では、傷害の治療に要する期間によって区分が変わります。

したがって、警察用診断書に記載する期間は、思っている以上に大きな意味を持つ場合があります。

医師の診断書は処分判断にも使われる

事故の行政処分や刑事手続きは、医師の診断書だけで決まるわけではありません。

事故態様、過失の程度、被害状況なども含めて判断されます。

しかし、「傷害がどの程度であったか」を判断するうえでは、医師の診断書が重要な資料となります。

そのため、

「どうせ治療期間の目安だから」

と軽く考えて期間を記載するのは適切ではありません。

一方で、相手方の処分を軽くするために医学的に必要な期間より短く書いたり、逆に重くするために長く書いたりすることも当然避けるべきです。

医師が書くべきなのは、あくまで医学的な傷害の程度です。

事故から4週間後に初めて受診した場合

たとえば、

「4週間前に交通事故に遭った。当初は病院に行かなかったが、その後も膝が痛い」

という患者さんが受診したとします。

この場合、医師が実際に確認できるのは事故から4週間後の状態です。

事故直後の腫脹や圧痛、可動域、歩行状態などは確認していません。

したがって、

「事故日から4週間の加療を要した」

と、そのまま遡って断定することには慎重であるべきです。

しかし逆に、

「現在まだ痛いので、今日からさらに2週間加療を要する」

とだけ書くのも問題があります。

これでは、事故による傷害が「事故後4週間+今後2週間=6週間程度の傷害」であったかのように受け取られる可能性があります。

警察が知りたいのは、原則として今回の事故によって生じた傷害の程度です。

受傷当初の傷害程度を推定して記載する

受診が遅れた場合には、事故から初診までの期間を明記したうえで、現在の診察所見や患者さんから聴取した経過から、受傷当初の傷害程度を医学的に推定して記載する方法が分かりやすいと思います。

たとえば次のような記載です。

「令和○年○月○日の交通事故で受傷したとの申告にて、事故後28日目に初診した。初診時の診察所見および現在までの経過から判断すると、本傷病は受傷当初において約2週間の安静加療を要する程度の傷害であったと推定される。」

このように書けば、

事故後28日目に初診したこと
事故直後を直接診察していないこと
現在の所見から過去の傷害程度を推定していること
受傷当初の傷害は約2週間程度と考えたこと

が明確になります。

単に「全治2週間」とだけ記載するより、診断書の意味がずっと分かりやすくなります。

「今後2週間必要」と「当初2週間相当」は違う

ここは重要です。

事故から4週間後に初診し、現在の症状があと2週間程度続きそうだからといって、

「事故による傷害は6週間相当」

とは限りません。

軽い捻挫でも疼痛だけが長く残ることがあります。

逆に、事故直後には強い腫脹や歩行障害があったことが明らかで、現在もそれに整合する所見が残っている場合には、より長い治療期間を要する傷害だったと推定することもあります。

したがって、

「受傷時の傷害程度」

と、

「初診日から今後必要となる治療期間」

は分けて考える必要があります。

初診が遅いほど因果関係の判断は難しくなる

事故当日に受診していれば、

「事故直後から腫脹があった」
「歩行困難だった」
「可動域制限があった」

などを医師が直接確認できます。

しかし、数週間後の初診では、その間の状態を医師は直接確認していません。

そのため、

「患者申告では事故後から症状が持続している」

という情報と、

「現在の診察で確認した所見」

を区別することも大切です。

受診が遅れたから事故との因果関係を否定するという意味ではありません。

しかし、診察していない期間について医師が事実を確認したかのように書くべきではありません。

「3週間以上は書かない」ということでもない

警察用診断書では、

「3週間以上書くと面倒になる」

という話が昔から医師の間で語られることがあります。

しかし、これは診断書の書き方としては本末転倒です。

明らかな骨折、脱臼、重度の靱帯損傷、手術を要する外傷などで、医学的に長期間の加療を必要とすると判断するのであれば、そのとおり記載すべきです。

相手方の行政処分や刑事処分を考えて期間を調整することは、医師の役割ではありません。

医師は医学的な傷害程度を判断し、その内容を正確に記載することに徹するべきだと思います。

最終的な治癒期間を初診時に正確に予測することはできない

そもそも、初診時に最終的な治癒までの日数を正確に予測することは困難です。

同じ骨折でも、年齢、転位、骨質、治療方法などによって治癒期間は異なります。

捻挫や打撲ではさらに個人差があります。

そのため、警察用診断書の期間は、

「実際に何日通院したか」

ではなく、

「その傷害が受傷当初どの程度の安静・加療を要する傷害であったと医学的に考えるか」

という意味で記載する方が、実態に合っているように思います。

医師が刑事処分や行政処分を決めるわけではない

診断書が行政処分や刑事手続きの資料になるとしても、医師が処分を決めるわけではありません。

行政処分は公安委員会、刑事責任は警察・検察・裁判所が、それぞれ事故態様や過失などを含めて判断します。

医師が責任を持つべきなのは、

「傷害について医学的に何が確認できるのか」

という部分です。

だからこそ、受診が遅れた症例では、

「事故後○日目に初診」
「受傷直後は直接診察していない」
「現在の所見と経過から受傷当初の傷害程度を推定した」

という関係を明確にしておくことが重要です。

まとめ

交通事故から大幅に遅れて初診した患者の警察用診断書では、事故直後の状態を医師が直接確認していません。

そのため、

「今日からあと○週間治療が必要」

という現在から将来の治療期間だけを書くのではなく、

「今回の事故によって、受傷当初どの程度の安静・加療を要する傷害であったと推定するか」

を明確にする方が、警察用診断書の目的に合っていると思います。

受診遅れの場合には、

「令和○年○月○日の交通事故で受傷したとの申告にて、事故後28日目に初診した。初診時の診察所見および現在までの経過から判断すると、本傷病は受傷当初において約2週間の安静加療を要する程度の傷害であったと推定される。」

といった書き方が一つの方法です。

重要なのは、処分が重くなるか軽くなるかではなく、医師が確認できた事実と医学的な推定を区別し、傷害の程度を正確に記載することだと思います。

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