人身傷害保険で健康保険の使用を強要してはいけない

交通事故の患者さんから、

「保険会社から健康保険を使ってくださいと言われた」

という話を聞くことがあります。

特に、人身傷害保険では、約款に「公的制度の利用等により費用の軽減に努める」といった趣旨の規定が置かれてきました。

しかし、この規定を根拠に、保険会社が患者さんや医療機関に健康保険の使用を強要してよいわけではありません。

平成11年5月21日、日本医師会と東京海上火災保険株式会社は、人身傷害補償保険の約款にあるこの努力規定について協議し、「公的保険の使用を強要するものではない」と確認しました。

その際、東京海上火災から日本医師会に対し、

「自賠責保険に係わる案件については従来と同様の取り扱いとする」
「その旨の社内徹底を図る」

という文書が出されています。日本医師会も、その後の通知で、約款自体の改正には至らなかったものの、「公的保険を強要するものではないとの確約をした」と説明しています。

この問題は、当時の日本医師会常任理事であった高瀬佳久先生も強く問題視していました。

平成11年6月25日の自動車損害賠償責任保険審議会懇談会では、高瀬先生が、任意保険会社が自賠責保険の段階から健康保険での診療を強要していると発言し、被害者が弱い立場に置かれていることを指摘しています。

この平成11年の日医と東京海上との確認は、一部では「高瀬確約」と呼ばれることがあります。公開資料でこの名称自体が正式名称として使われていることは確認できませんが、高瀬佳久先生が当時の日医常任理事としてこの問題に深く関わっていたことは確認できます。

重要なのは、

「交通事故では健康保険を使ってはいけない」

という話ではありません。

交通事故でも健康保険を使用することはできます。

問題なのは、患者さん本人の意思や医療機関の判断とは関係なく、損害保険会社側の都合だけで、

「健康保険を使ってください」
「人身傷害保険だから健康保険を使わなければなりません」

と強制することです。

日本医師会の資料でも、第三者の都合や意向によって健康保険の利用を強要されてはならない、という考え方が示されています。

したがって、人身傷害保険の約款に公的保険利用の努力規定があったとしても、それは健康保険使用を義務付けるものではない、と理解するのが適切だと思います。

患者さんが健康保険を使うか、自賠責・任意保険による自由診療で治療を受けるかについては、それぞれの制度や事故状況を踏まえて判断すべきであり、損保側から一方的に健康保険使用を強要されるべきではありません。

参考:いわゆる「高瀬確約」

平成11年5月21日

社団法人日本医師会
常任理事 高瀬佳久 殿

東京海上火災保険株式会社
常務取締役 阿久津 誠

ご照会いただいた「TAP」の人身傷害補償保険
(普通保険約款一般条項第14条10号)の規定は、
下記のように運用いたします。

記

1.自賠責保険に関わる案件については、従来と同様の取り扱いとする。
2.その旨の社内徹底を図る。

以上

「この確認は、後年の日本医師会資料でも『公的保険の使用を強要するものではないとの確約』として紹介されています。なお、『高瀬確約』は通称であり、正式名称ではありません。」

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