自賠責の受任請求と支払指図は何が違う?

交通事故の治療費は、加害者側の任意保険会社が「一括払い」で医療機関へ支払うことが多く、患者さんも医療機関も自賠責保険へ直接請求する機会はそれほど多くありません。

しかし、任意保険会社が一括対応をしない場合や、途中で一括払いを終了した場合には、自賠責保険へ直接請求する方法があります。

医療機関が関係する方法として、「受任請求」と「支払指図」があります。

名前は似ていますが、両者の最大の違いは、

誰が自賠責保険へ請求するのか

という点です。

日本医師会の労災・自賠責委員会答申でも、両者は明確に区別されています。

まず自賠責の「被害者請求」とは

自賠責保険では、加害者から十分な賠償を受けられない場合、被害者自身が加害車両の自賠責保険会社へ直接請求できます。

これを「被害者請求」といいます。

傷害については、治療が全部終了するまで待つ必要はなく、総損害額が確定する前でも、限度額の範囲内で複数回請求できます。

傷害の場合、自賠責の支払限度額は被害者1人につき120万円で、この中から治療費、文書料、休業損害、慰謝料などが支払われます。

受任請求とは

受任請求では、患者さんが自分で自賠責へ請求するのではありません。

患者さんから医療機関が委任を受け、

医療機関が被害者の代理人として、自賠責保険会社へ治療費を請求します。

日本医師会は、

「医療機関が患者から医療費に関する請求、受領の委任状を取得し、直接自賠責保険に請求する」

方法を「受任請求」と説明しています。

したがって、医療機関は単なる振込先ではありません。

患者さんから「治療費について自賠責へ請求し、その支払いを受領する権限」を委任されて、被害者請求を代理して行います。

支払指図とは

支払指図では、請求するのはあくまで患者本人です。

患者さん自身が自賠責保険へ被害者請求を行い、その際に、

「治療費については、この医療機関へ直接支払ってください」

と自賠責保険会社へ指示します。

日本医師会はこれを、

「患者が自賠責保険に請求し、医療費は医療機関に支払うよう自賠責保険会社に指示する」

方法と説明しています。

つまり、医療機関は請求の代理人ではなく、支払先として指定されているだけです。

一番大きな違いは「請求者」

簡単に整理すると、

受任請求支払指図
自賠責への請求者医療機関が患者の代理人として請求患者本人
医療機関への委任必要原則として請求代理の委任は不要
医療費の振込先医療機関医療機関
医療機関の立場請求・受領の代理人支払先
慰謝料・休業損害等患者が別途請求するのが通常患者自身の被害者請求で処理

結果として医療機関へ直接治療費が振り込まれる点は同じでも、法律関係はかなり違います。

受任請求では何を委任してもらうのか

医療機関が受任請求する場合、患者さんから委任状を取得します。

委任の範囲は、通常、

「当院における治療費およびこれに付随する診断書・診療報酬明細書等の費用について、自賠責保険への請求および受領を委任する」

程度に限定しておくのが分かりやすいでしょう。

医療機関が慰謝料や休業損害まで患者に代わって請求する必要はありません。

あくまで自院の医療費に関する部分だけを受任する方法です。

交通事故証明書などは誰が用意するのか

受任請求では、事故そのものに関する書類も必要になります。

代表的なのは、

交通事故証明書
事故発生状況報告書

です。

これらは医療機関が事故状況を調査して作成するものではありません。

交通事故証明書は自動車安全運転センターが発行するもので、事故発生状況報告書は事故当事者側が事故状況を記載します。

したがって、医療機関が受任請求をする場合には、患者さんへ、

「自賠責の受任請求を行いますので、交通事故証明書と事故発生状況報告書をご用意ください」

とお願いすることになります。

任意保険会社がすでにこれらを持っている場合には、患者さんを通して写しを取得できる場合もあります。

支払指図の方が患者主体

支払指図では、患者さん自身が被害者請求を行います。

その請求の中には、治療費だけでなく、

休業損害
慰謝料
通院交通費

なども含まれます。

自賠責の傷害限度額120万円は、これら全部を合わせた限度額です。

したがって、治療費を医療機関へ直接支払うよう指図したとしても、それだけ別枠で120万円あるわけではありません。

治療費が多くなれば、その分だけ慰謝料や休業損害等に充てられる自賠責の枠は小さくなります。

受任請求でも120万円の枠は同じ

受任請求でも同じです。

医療機関が代理して自賠責へ治療費を請求しても、治療費だけに別枠が設けられるわけではありません。

たとえば医療費として80万円が自賠責から支払われれば、傷害限度額120万円のうち残るのは40万円です。

その残額から、患者さんの慰謝料、休業損害、交通費などが支払われます。

このため、医療費が高額になりそうな場合には、医療機関だけでなく患者さん自身も自賠責の残額を理解しておく必要があります。

なぜ任意保険会社は受任請求を嫌がることがあるのか

任意一括では、加害者側の任意保険会社が自賠責分を含めて治療費、慰謝料、休業損害などを一元的に管理します。

これに対して、医療機関が受任請求を行うと、治療費は医療機関から直接自賠責へ請求されます。

そのため、任意保険会社から見ると、自賠責120万円の枠について自社で一括管理しにくくなる面があります。

ただし、

「損保が医療費をコントロールできなくなるので嫌がる」

とまで断定するのは適切ではありません。

一括払いによる損害全体の管理が分断されることや、自賠責からすでにいくら支払われたのかを確認しながら任意保険分を処理しなければならなくなることなど、事務上・制度上の理由もあります。

任意一括と受任請求は別物

任意一括払いでは、加害者側の任意保険会社が、自賠責から支払われる部分をいったん立て替え、自社の任意保険分と合わせて支払います。

国土交通省も、一括払いを、任意保険会社が自賠責保険金を含めて加害者に代わり賠償金を支払う仕組みと説明しています。

一方、受任請求では任意保険会社を介しません。

医療機関が患者の代理人として、加害車両の自賠責保険会社へ直接請求します。

したがって、

任意一括払い
受任請求
支払指図

は、それぞれ別の仕組みです。

どんな場合に受任請求を考えるのか

通常、任意一括払いが問題なく続いているのであれば、患者にも医療機関にも最も手間が少ない方法です。

一方、

任意損保が最初から一括対応をしない
途中で一括払いを中止した
加害者側が責任を争っている
被害者の過失が大きく、任意一括にならない
健康保険使用をめぐって任意損保と折り合わない

などの場合には、自賠責への被害者請求が選択肢になります。

その際、患者さん自身に手続きを任せず、医療機関が自院の治療費部分について代理請求するのが受任請求です。

どちらが優れているというものではない

受任請求と支払指図は、目的は似ています。

どちらも、患者さんがいったん多額の治療費を立て替えなくても、最終的に医療機関へ直接治療費を支払わせることができます。

ただし、

医療機関が手続きを主導するなら受任請求
患者本人が被害者請求全体を管理するなら支払指図

という違いがあります。

受任請求では医療機関の事務負担が増えます。

支払指図では患者さん自身が自賠責請求手続きを行う必要があります。

どちらを利用するかは、事故状況、任意保険会社の対応、患者さんの手続き能力、治療費の額などを踏まえて決めることになります。

まとめ

自賠責の受任請求と支払指図は、どちらも医療費を自賠責から医療機関へ直接支払わせる方法ですが、大きな違いがあります。

受任請求は、医療機関が患者から委任を受け、被害者の代理人として自賠責へ請求する方法です。

支払指図は、患者本人が被害者請求を行い、その中の医療費について医療機関へ直接支払うよう指定する方法です。

日本医師会の資料でも、この二つは明確に区別されています。

一言で表せば、

受任請求=「医療機関が請求する」
支払指図=「患者が請求し、医療機関を振込先にする」

という違いです。

任意一括払いが行われない場合に、医療機関として知っておいてよい方法だと思います。

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