交通事故でけがをして仕事を休んでいる患者さんから、「自賠責保険で治療を受けていますが、収入がなくて困っています。健康保険の傷病手当金をもらうことはできますか?」と質問されることがあります。
結論から言えば、自賠責保険で治療中でも、健康保険の傷病手当金を受給できる場合があります。
特に、交通事故による休業損害がまだ支払われておらず、当面の生活費に困っている場合には、検討する価値のある制度です。
傷病手当金とは?
傷病手当金は、会社員など健康保険の被保険者が、病気やけがの療養のため仕事を休み、給与を受けられない場合に支給される制度です。
原則として、次の4つの条件を満たす必要があります。
- 業務外の病気やけがで療養していること
- 療養のため仕事ができないこと(労務不能)
- 連続3日間の待期期間を経過し、4日目以降も仕事を休んでいること
- 休業期間中に給与が支払われていないこと(給与が少ない場合には差額が支給されることがあります)
支給額は、おおむね給与の3分の2に相当する金額です。正確には標準報酬月額を基に計算され、支給期間は通算1年6か月が上限です。
なお、国民健康保険には一般に会社員の健康保険と同様の傷病手当金制度はありません。また、健康保険の扶養家族も原則として対象外です。
自賠責保険で治療中でも申請できるのか?
できます。
傷病手当金の支給要件に、治療費を健康保険で支払っていることという条件はありません。
したがって、加害者側の自賠責保険や任意保険で治療費が支払われていても、それだけを理由に傷病手当金の対象外になるわけではありません。
例えば、交通事故で骨折し、2か月間仕事を休まなければならなくなった会社員が、加害者側の保険会社から休業損害の支払いをまだ受けていない場合です。
このようなケースでは、健康保険の傷病手当金を申請し、支給要件を満たせば先に受給できる可能性があります。
ただし、支給を決定するのは加入している健康保険の保険者です。
自賠責保険の休業損害と両方もらえるのか?
ここが重要です。
自賠責保険の休業損害と健康保険の傷病手当金は、どちらも仕事を休んだことによる収入の減少を補う性質があります。
そのため、同じ休業期間について、両方から重複して補償を受けることはできません。
例えば、傷病手当金を先に受給した後、自賠責保険から休業損害が支払われることになった場合には、支給額の調整が必要になります。
健康保険法第57条では、第三者の行為による傷病について保険給付を行った場合、保険者がその給付額の範囲で、加害者に対する損害賠償請求権を取得すると規定しています。
つまり、健康保険者が傷病手当金を先に支給し、後から加害者側に請求する仕組みがあります。
すでに休業損害を受け取っている場合には、その内容によって傷病手当金が支給されないこともあります。
交通事故でも医師に傷病手当金の証明を書いてもらえるのか?
交通事故で治療中であることだけを理由に、医師が傷病手当金支給申請書の記載を断る必要はありません。
ただし、医師が証明するのは、患者さんが仕事を休んでいるという事実だけではなく、病気やけがのために仕事ができない状態であったかどうかです。
例えば、同じ足関節骨折でも、立ち仕事の患者さんと、座って事務作業を行う患者さんでは、労務不能と判断される期間が異なる場合があります。
また、通院しているというだけで、必ずしも労務不能とは限りません。
医師は診察所見や傷病の程度、仕事内容などを考慮して意見を記載します。最終的な支給の可否は健康保険者が判断します。
仕事中や通勤途中の交通事故は?
仕事中や通勤途中の交通事故では、原則として労災保険の対象になります。
この場合は健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の休業補償給付または休業給付などを検討することになります。
交通事故であっても、業務外の事故なのか、業務災害・通勤災害なのかによって制度が異なります。
申請するにはどうすればよいのか?
まず、加入している健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)に相談してください。
その際には、交通事故によるけがであること、自賠責保険で治療中であること、休業損害が支払われているかどうかを正確に伝える必要があります。
協会けんぽでは、第三者の行為による傷病について傷病手当金を申請する場合、「第三者行為による傷病届」も必要とされています。
傷病手当金支給申請書には、患者本人、事業主、療養担当者(医師)などが記載する欄があります。
まとめ
交通事故で自賠責保険による治療を受けていても、健康保険の傷病手当金を受給できる場合があります。
特に、けがのため仕事ができず、加害者側の保険会社から休業損害がまだ支払われていない場合には、当面の生活を支える制度として利用できる可能性があります。
ただし、休業損害との二重補償はできず、後日調整が必要になることがあります。
また、傷病手当金は収入がないという理由だけで支給されるものではありません。療養のため労務不能であることが必要です。
申請を希望される場合は、まず加入している健康保険の保険者にご相談ください。
参考資料(記事末尾に掲載可能)
- 全国健康保険協会:傷病手当金 — 支給要件、金額、期間。
全国健康保険協会 協会けんぽ
- 全国健康保険協会:傷病手当金支給申請書 — 第三者行為による傷病届の添付について。
全国健康保険協会 協会けんぽ
- 健康保険法第57条(損害賠償請求権) — 第三者行為による保険給付と求償の根拠。
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