仕事を終えた後、職場に設置された風呂で転倒してケガをした場合、そのケガは労災になるのでしょうか。それとも健康保険を使うのでしょうか。
実際に、身体がかなり汚れる仕事に従事している方が、勤務終了後に職場の風呂で入浴中に転倒して骨折したケースがありました。
会社側からは、
「タイムカードを押した後だった」
「入浴は会社から義務づけられていない」
という理由で、当初は労災ではないとの説明を受けたそうです。
しかし、労災になるかどうかは、タイムカードを押した前か後かだけで決まるものではありません。また、会社が「労災ではない」と判断すれば、それで決まるわけでもありません。
職場での入浴が「業務に付随する行為」かどうか
労災保険では、仕事そのものだけでなく、仕事に通常付随して行われる行為の最中に発生した事故についても、業務災害と認められることがあります。
例えば、
・作業によって身体が著しく汚れる
・強い臭いが身体や衣服につく
・多くの従業員が勤務終了後に職場で入浴している
・会社が従業員用の浴室を設置している
といった事情があれば、入浴が単なる私的な行為ではなく、仕事に付随する行為と評価される可能性があります。
逆に、仕事とは特に関係なく、本人が個人的な都合で入浴していたのであれば、労災とは認められにくくなります。
したがって、
「入浴が義務だったか」
だけで判断するのではなく、
「その仕事では、勤務後に身体を洗うことがどの程度必要だったのか」
を見ることが重要になります。
タイムカードを押した後なら労災ではない?
これも単純ではありません。
タイムカードを押した後であっても、職場内で業務に付随する行為を行っていたのであれば、労災となる可能性があります。
労災かどうかは、勤務時間内かどうかだけではなく、
・事故が起きた場所
・事故が起きた行為と仕事との関係
・会社の設備を利用していたか
・その行為が通常の業務に付随するものか
などを総合的にみて判断されます。
労災かどうかを最終的に決めるのは会社ではない
会社や社会保険労務士が「労災ではない」と考えていても、それが最終決定ではありません。
労災保険給付を請求した後、労働基準監督署が事故の状況や業務との関係を調査して、労災に該当するかどうかを判断します。
今回のようなケースでは、
「仕事でどの程度身体が汚れるのか」
「入浴する従業員はどのくらいいるのか」
「会社がなぜ浴室を設置しているのか」
といった事情も判断材料になります。
「会社ともめたくないので健康保険」はできる?
患者さんから、
「会社ともめると面倒なので、労災にせず健康保険を使いたい」
と言われることがあります。
しかし、仕事が原因のケガであれば、原則として健康保険ではなく労災保険の対象です。
本人が労災申請を希望しないからといって、医療機関が自由に健康保険へ切り替えてよいというものではありません。
そのため、労災か健康保険か判断に迷う場合には、まず労災として申請し、労働基準監督署の判断を受けるのが適切だと思います。
今回のようなケースでは
勤務後で、入浴が明確に義務づけられていなかったとしても、
・仕事で身体が著しく汚れる
・帰宅前に身体を洗う必要性が高い
・多くの従業員が職場の浴室を利用している
といった事情があれば、入浴は業務に付随する行為と判断される余地があります。
したがって、
「タイムカードを押した後だから労災ではない」
「会社が入浴を義務づけていないから労災ではない」
と一律に判断するのは適切ではありません。
最終的には、労働基準監督署が個々の事情を調査したうえで判断することになります。
今回のケースでも、最終的には会社側も労災として手続きを進めることになりました。

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