3台以上が関係する玉突き事故では、
「一番後ろの車だけが加害者なのか」
「真ん中の車にも責任があるのか」
「自賠責保険は何台分使えるのか」
が問題になることがあります。
結論からいうと、玉突き事故だから常に後方車両だけが責任を負うわけではありません。事故の発生状況によって、複数の車両が共同不法行為者となることがあります。
典型的な3台の玉突き事故
前からA車、B車、C車の3台が走っていたとします。
C車がB車に追突し、その衝撃でB車がA車に追突した場合、A車の搭乗者が負傷することがあります。
この場合、
「直接ぶつかったのはB車だから、B車にも必ず責任がある」
とも、
「原因を作ったのはC車だから、C車だけが必ず責任を負う」
とも一律には言えません。
重要なのは、B車にも事故発生について法的な責任が認められるかどうかです。
真ん中の車に過失がなければどうなるのか
たとえばB車が赤信号で適切に停止していたところ、後方からC車に強く追突され、その勢いだけでA車に押し出された場合です。
このような場合、B車としては自らの運転操作によってA車へ追突したわけではありません。
十分な車間距離をとって停止していたとしても、後方から強く押し出されれば前車への衝突を避けられない場合があります。
このような事情でB車に賠償責任が認められなければ、A車の被害について責任を負うのは原則としてC車ということになります。
その場合、自賠責についても「事故に関与した車が2台あるから自動的に2台分使える」ということにはなりません。
複数の車に責任があれば「共同不法行為」になる
一方、B車にも過失が認められる場合があります。
たとえば、走行中にB車が前車との車間距離を十分に取っていなかったことが事故の拡大に寄与した場合などです。
このように、複数の車両の行為が一つの損害発生に関係し、それぞれに賠償責任が認められる場合には、「共同不法行為」となることがあります。
日本損害保険協会も、2台以上の自動車による事故で加害者が複数いる共同不法行為の場合、被害者はそれぞれの加害者の自賠責保険会社へ請求でき、支払限度額は通常、加害車両台数に応じて増えると説明しています。たとえば傷害なら通常120万円ですが、加害車両が2台なら240万円となる場合があります。
「関与した車両の数」と「使える自賠責の数」は同じではない
ここは重要です。
3台の事故だから自賠責が2台分使える、4台なら3台分使える、という単純な仕組みではありません。
自賠責の支払限度額が複数台分になるのは、複数の車両について被害者に対する賠償責任が認められる場合です。
したがって、
「直接ぶつかった車」
「事故原因を作った車」
という物理的な位置関係だけで決まるわけではありません。
自賠法3条の責任
自動車損害賠償保障法3条では、自動車を自己のために運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害した場合、原則として損害賠償責任を負う仕組みになっています。
ただし、同条には免責の規定があります。
運行供用者側が、
自分および運転者が自動車の運行について注意を怠らなかったこと
被害者または第三者に故意・過失があったこと
自動車に構造上の欠陥や機能障害がなかったこと
などの要件を証明した場合には、責任を免れる余地があります。
したがって、真ん中の車が単に事故に巻き込まれ、後方から押し出されただけで、自ら回避可能な過失がなかったと判断されれば、その車について自賠責上の責任が認められないことがあります。
「車間距離が短かったから真ん中の車にも過失」は必ずしも成り立たない
玉突き事故では、
「真ん中の車にも前車との車間距離保持義務があるのだから、責任があるのではないか」
という疑問が出ます。
確かに、走行中に異常に車間距離が短く、それが前車への追突に寄与したのであれば、過失が問題になる可能性があります。
しかし、信号待ちなどで停止中に後方から強く衝突されて押し出された場合まで、
「サイドブレーキを引いていなかった」
「フットブレーキだけだった」
「もう少し前車との距離を空けるべきだった」
という理由だけで当然に賠償責任が生じるとは限りません。
後方からの衝撃の程度や停止位置、車間距離、ブレーキ操作など、具体的な事故状況を見なければ判断できません。
被害者は誰に請求すればよいのか
複数の加害者による共同不法行為が成立する場合、被害者は原則として、それぞれの加害者に損害賠償を請求できます。
自賠責についても、加害者が複数いればそれぞれの自賠責保険へ請求でき、限度額も加害車両数に応じて増えることがあります。
ただし、これは被害者が損害額を二重に受け取れるという意味ではありません。
あくまで実際に生じた損害額の範囲内で支払われます。
医療機関では誰の自賠責かまで判断できない
医療機関としては、
「3台の事故だから自賠責は2台分です」
などと判断することはできません。
誰にどの程度の賠償責任があるかは、事故状況、警察の資料、当事者の供述、ドライブレコーダー、車両損傷の位置などを踏まえて判断される問題です。
したがって、患者さんから
「自賠責は何台分使えますか」
と聞かれても、
「複数車両に賠償責任が認められる共同不法行為なら複数台分になる可能性がありますが、単に事故に関与した車の台数だけでは決まりません」
と説明するのが適切でしょう。
まとめ
玉突き事故では、通常は後方から追突した車の責任が大きくなります。
しかし、複数の車両にそれぞれ事故発生について賠償責任が認められれば、共同不法行為となり、複数の自賠責保険が利用できることがあります。日本損害保険協会も、共同不法行為の場合には加害車両数に応じて自賠責の支払限度額が増える場合があると説明しています。
一方、真ん中の車が後方から押し出されただけで、自らの過失が認められない場合には、その車は賠償責任を負わず、自賠責も1台分だけになることがあります。
したがって、
「玉突き事故だから自賠責は必ず2台分」でも、
「一番後ろの車だけが必ず責任を負う」でもありません。
事故ごとに、各車両に賠償責任があるかどうかを個別に判断する必要があります。

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