変形性膝関節症や変形性股関節症では、痛み止めとしてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)がよく使われます。
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどが代表的な薬です。痛みや炎症を抑える効果があり、変形性関節症の治療には欠かせない薬ですが、「長期間飲み続けると関節そのものを悪くすることはないのか」という疑問があります。
実は、この問題はかなり以前から研究されています。
■ インドメタシンで膝OAの進行が速かった研究
この問題でよく知られているのが、1995年に報告されたLINK Studyです。
変形性膝関節症812人を対象に、
・インドメタシン 25mgを1日3回
・tiaprofenic acid 300mgを1日2回
・プラセボ(偽薬)
を比較した無作為化二重盲検試験です。
少なくとも1年間治療を継続して評価できた患者について調べると、インドメタシン群ではプラセボ群より関節裂隙の狭小化が多く認められました。
途中解析では、
インドメタシン群 40/85人
プラセボ群 19/85人
でX線上の悪化が認められ、有意差がありました(p=0.009)。
一方、別のNSAIDであるtiaprofenic acidでは、プラセボとの有意差はありませんでした。
したがって、この研究から「NSAIDsはすべて関節を悪くする」とはいえませんが、少なくともインドメタシンについては、膝OAのX線上の進行を速めた可能性が示されています。
■ 股関節でもインドメタシンによる悪化が報告されている
股関節OAについても、インドメタシンで同様の報告があります。
1989年には、人工股関節置換術を予定していた股関節OA患者105人を対象として、インドメタシンと別のNSAIDを比較した前向き研究が報告されています。
インドメタシンを使用した患者では、OAのある股関節の関節裂隙が反対側より速く減少していました。
このため、インドメタシンが変形性関節症の進行を促進する可能性は、膝だけでなく股関節でも以前から指摘されてきました。
■ ジクロフェナクでも同様の報告
2005年のRotterdam Studyでは、55歳以上の住民を平均6.6年間追跡し、NSAIDsの使用と膝・股関節OAの進行との関係を調べています。
ジクロフェナクを180日を超えて使用した人では、1~30日の短期使用者と比較して、X線上のOAが進行するリスクが、
股関節 2.4倍
膝関節 3.2倍
でした。
これだけを見ると、ジクロフェナクを長期間使用するとOAが進行するように見えます。
しかし、この研究は無作為化試験ではなく観察研究です。
もともとOAが重症で痛みが強い患者ほどNSAIDsを長期間使用するでしょうから、「NSAIDsを使ったからOAが悪化した」のか、「OAが悪かったからNSAIDsを長期間使った」のかを完全に区別することはできません。
■ 痛みを取ることで関節を使いすぎる?
もう一つ興味深い仮説があります。
NSAIDsによって痛みが軽くなれば、患者さんは歩きやすくなります。
これは通常は良いことですが、すでに傷んでいる荷重関節にとっては、痛みがいわば「使いすぎを防ぐ警報装置」になっている可能性もあります。
痛みが薬で抑えられる
↓
歩行や活動量が増える
↓
傷んだ関節に繰り返し荷重がかかる
↓
OAの構造的進行が速くなる
という可能性です。
実際、Rotterdam Studyの研究者も、ジクロフェナクによるOA進行について、軟骨に対する直接的な悪影響だけでなく、鎮痛によって荷重が増えた可能性を挙げています。
ただし、この仕組みが実際に人間のOAを進行させることが証明されているわけではありません。
■ 最近の研究では必ずしも悪化していない
一方、その後の研究ではNSAIDsによるOAの悪化を否定する結果も出ています。
2024年には、Osteoarthritis Initiative(OAI)、MOST、CHECKという3つの大規模研究のデータを合わせ、4,197人、8,394膝を4~5年間追跡した研究が報告されています。
NSAIDsを長期間使用していた人では、痛みや機能障害が強く、人工膝関節置換術を受ける割合も高くなっていました。
しかし、X線などで評価した膝関節の構造的悪化については、
OR 1.25(95%信頼区間 0.94~1.65)
で、NSAIDs非使用者との有意差はありませんでした。
これも観察研究なので、NSAIDs使用者にもともと症状の強い患者が多かった可能性があります。
さらにOAIのデータを用いてMRIで4年間追跡した最近の研究では、NSAIDsを新たに使用した142人と対照707人を比較しています。
NSAIDsによってMRI上の滑膜炎が改善したとはいえませんでしたが、意外なことに軟骨病変の進行はNSAIDs使用者のほうがわずかに遅いという結果でした。
つまり、最近の研究まで含めると、「NSAIDsを長期間使用すると軟骨が傷んでOAが進行する」という単純な話ではありません。
■ NSAIDsはOAを治す薬ではない
ここで重要なのは、NSAIDsは基本的に変形性関節症そのものを治す薬ではないということです。
NSAIDsには痛みや炎症を軽減する効果がありますが、すり減った軟骨を元に戻す作用が証明されているわけではありません。
したがって、
「痛みがなくなった=関節が治った」
ではありません。
痛みが軽くなったからといって、無制限に歩いたり運動したりしてよいとは限りません。特に荷重時痛の強い膝OAや股関節OAでは、体重、活動量、筋力、関節の変形の程度なども考えながら運動量を調整する必要があります。
■ 結局、NSAIDsを飲み続けると関節が悪くなるのか?
現在までの研究からは、次のように考えるのが妥当だと思います。
「NSAIDsを飲み続けると変形性関節症が悪化する」と断定できるだけの証拠はありません。
一方で、「NSAIDsは痛みを取るだけなので、関節にはまったく影響しない」と言い切ることもできません。
特にインドメタシンについては、膝OAの無作為化比較試験でX線上の進行が速かったという報告があり、股関節でも同様の報告があります。ジクロフェナクの長期使用と膝・股関節OAの進行との関連を示した観察研究もあります。
しかし、最近の大規模研究では構造的悪化との関連が認められなかったり、MRIではむしろ軟骨病変の進行がわずかに遅かったという報告もあります。
したがって現時点では、
「NSAIDs全体がOAを進行させるという証拠はない。ただし、一部のNSAIDsや長期使用についてはOAの進行を促す可能性が以前から指摘されており、完全には否定できない」
というのが適切でしょう。
NSAIDsは変形性関節症の痛みに有効な薬ですが、「痛みが取れるから」という理由だけで漫然と長期間飲み続けるのではなく、必要性をときどき見直しながら使用することが大切だと思います。
参考文献
- Huskisson EC, et al. Effects of antiinflammatory drugs on the progression of osteoarthritis of the knee. J Rheumatol. 1995;22:1941-1946. PMID: 8991995.
- Rashad S, et al. Effect of non-steroidal anti-inflammatory drugs on the course of osteoarthritis. Lancet. 1989. PMID: 2570233.
- Reijman M, et al. Is there an association between the use of different types of nonsteroidal antiinflammatory drugs and radiologic progression of osteoarthritis? The Rotterdam Study. Arthritis Rheum. 2005;52:3137-3142. PMID: 16200593.
- Salis Z, Sainsbury A. Association of long-term use of non-steroidal anti-inflammatory drugs with knee osteoarthritis: a prospective multi-cohort study over 4-to-5 years. Sci Rep. 2024;14:6593. PMID: 38504099.
- Limited effects of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) on imaging outcomes in osteoarthritis: observational data from the Osteoarthritis Initiative (OAI). PMID: 41063134.
変形性関節症にNSAIDsを飲み続けると、関節が悪くなるのか?
変形性膝関節症や変形性股関節症では、痛み止めとしてNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)がよく使われます。
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどが代表的な薬です。痛みや炎症を抑える効果があり、変形性関節症の治療には欠かせない薬ですが、「長期間飲み続けると関節そのものを悪くすることはないのか」という疑問があります。
実は、この問題はかなり以前から研究されています。
■ インドメタシンで膝OAの進行が速かった研究
この問題でよく知られているのが、1995年に報告されたLINK Studyです。
変形性膝関節症812人を対象に、
・インドメタシン 25mgを1日3回
・tiaprofenic acid 300mgを1日2回
・プラセボ(偽薬)
を比較した無作為化二重盲検試験です。
少なくとも1年間治療を継続して評価できた患者について調べると、インドメタシン群ではプラセボ群より関節裂隙の狭小化が多く認められました。
途中解析では、
インドメタシン群 40/85人
プラセボ群 19/85人
でX線上の悪化が認められ、有意差がありました(p=0.009)。
一方、別のNSAIDであるtiaprofenic acidでは、プラセボとの有意差はありませんでした。
したがって、この研究から「NSAIDsはすべて関節を悪くする」とはいえませんが、少なくともインドメタシンについては、膝OAのX線上の進行を速めた可能性が示されています。
■ 股関節でもインドメタシンによる悪化が報告されている
股関節OAについても、インドメタシンで同様の報告があります。
1989年には、人工股関節置換術を予定していた股関節OA患者105人を対象として、インドメタシンと別のNSAIDを比較した前向き研究が報告されています。
インドメタシンを使用した患者では、OAのある股関節の関節裂隙が反対側より速く減少していました。
このため、インドメタシンが変形性関節症の進行を促進する可能性は、膝だけでなく股関節でも以前から指摘されてきました。
■ ジクロフェナクでも同様の報告
2005年のRotterdam Studyでは、55歳以上の住民を平均6.6年間追跡し、NSAIDsの使用と膝・股関節OAの進行との関係を調べています。
ジクロフェナクを180日を超えて使用した人では、1~30日の短期使用者と比較して、X線上のOAが進行するリスクが、
股関節 2.4倍
膝関節 3.2倍
でした。
これだけを見ると、ジクロフェナクを長期間使用するとOAが進行するように見えます。
しかし、この研究は無作為化試験ではなく観察研究です。
もともとOAが重症で痛みが強い患者ほどNSAIDsを長期間使用するでしょうから、「NSAIDsを使ったからOAが悪化した」のか、「OAが悪かったからNSAIDsを長期間使った」のかを完全に区別することはできません。
■ 痛みを取ることで関節を使いすぎる?
もう一つ興味深い仮説があります。
NSAIDsによって痛みが軽くなれば、患者さんは歩きやすくなります。
これは通常は良いことですが、すでに傷んでいる荷重関節にとっては、痛みがいわば「使いすぎを防ぐ警報装置」になっている可能性もあります。
痛みが薬で抑えられる
↓
歩行や活動量が増える
↓
傷んだ関節に繰り返し荷重がかかる
↓
OAの構造的進行が速くなる
という可能性です。
実際、Rotterdam Studyの研究者も、ジクロフェナクによるOA進行について、軟骨に対する直接的な悪影響だけでなく、鎮痛によって荷重が増えた可能性を挙げています。
ただし、この仕組みが実際に人間のOAを進行させることが証明されているわけではありません。
■ 最近の研究では必ずしも悪化していない
一方、その後の研究ではNSAIDsによるOAの悪化を否定する結果も出ています。
2024年には、Osteoarthritis Initiative(OAI)、MOST、CHECKという3つの大規模研究のデータを合わせ、4,197人、8,394膝を4~5年間追跡した研究が報告されています。
NSAIDsを長期間使用していた人では、痛みや機能障害が強く、人工膝関節置換術を受ける割合も高くなっていました。
しかし、X線などで評価した膝関節の構造的悪化については、
OR 1.25(95%信頼区間 0.94~1.65)
で、NSAIDs非使用者との有意差はありませんでした。
これも観察研究なので、NSAIDs使用者にもともと症状の強い患者が多かった可能性があります。
さらにOAIのデータを用いてMRIで4年間追跡した最近の研究では、NSAIDsを新たに使用した142人と対照707人を比較しています。
NSAIDsによってMRI上の滑膜炎が改善したとはいえませんでしたが、意外なことに軟骨病変の進行はNSAIDs使用者のほうがわずかに遅いという結果でした。
つまり、最近の研究まで含めると、「NSAIDsを長期間使用すると軟骨が傷んでOAが進行する」という単純な話ではありません。
■ NSAIDsはOAを治す薬ではない
ここで重要なのは、NSAIDsは基本的に変形性関節症そのものを治す薬ではないということです。
NSAIDsには痛みや炎症を軽減する効果がありますが、すり減った軟骨を元に戻す作用が証明されているわけではありません。
したがって、
「痛みがなくなった=関節が治った」
ではありません。
痛みが軽くなったからといって、無制限に歩いたり運動したりしてよいとは限りません。特に荷重時痛の強い膝OAや股関節OAでは、体重、活動量、筋力、関節の変形の程度なども考えながら運動量を調整する必要があります。
■ 結局、NSAIDsを飲み続けると関節が悪くなるのか?
現在までの研究からは、次のように考えるのが妥当だと思います。
「NSAIDsを飲み続けると変形性関節症が悪化する」と断定できるだけの証拠はありません。
一方で、「NSAIDsは痛みを取るだけなので、関節にはまったく影響しない」と言い切ることもできません。
特にインドメタシンについては、膝OAの無作為化比較試験でX線上の進行が速かったという報告があり、股関節でも同様の報告があります。ジクロフェナクの長期使用と膝・股関節OAの進行との関連を示した観察研究もあります。
しかし、最近の大規模研究では構造的悪化との関連が認められなかったり、MRIではむしろ軟骨病変の進行がわずかに遅かったという報告もあります。
したがって現時点では、
「NSAIDs全体がOAを進行させるという証拠はない。ただし、一部のNSAIDsや長期使用についてはOAの進行を促す可能性が以前から指摘されており、完全には否定できない」
というのが適切でしょう。
NSAIDsは変形性関節症の痛みに有効な薬ですが、「痛みが取れるから」という理由だけで漫然と長期間飲み続けるのではなく、必要性をときどき見直しながら使用することが大切だと思います。
参考文献
- Huskisson EC, et al. Effects of antiinflammatory drugs on the progression of osteoarthritis of the knee. J Rheumatol. 1995;22:1941-1946. PMID: 8991995.
- Rashad S, et al. Effect of non-steroidal anti-inflammatory drugs on the course of osteoarthritis. Lancet. 1989. PMID: 2570233.
- Reijman M, et al. Is there an association between the use of different types of nonsteroidal antiinflammatory drugs and radiologic progression of osteoarthritis? The Rotterdam Study. Arthritis Rheum. 2005;52:3137-3142. PMID: 16200593.
- Salis Z, Sainsbury A. Association of long-term use of non-steroidal anti-inflammatory drugs with knee osteoarthritis: a prospective multi-cohort study over 4-to-5 years. Sci Rep. 2024;14:6593. PMID: 38504099.
- Limited effects of non-steroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs) on imaging outcomes in osteoarthritis: observational data from the Osteoarthritis Initiative (OAI). PMID: 41063134.

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