ばね指は腱鞘周囲注射でも十分効果がある

ばね指に対するステロイド注射では、以前から「薬液を腱鞘内に確実に入れること」が重要と考えられてきました。

しかし、最近の研究を見ると、必ずしも腱鞘内に入れる必要はなく、A1 pulley周囲、つまり腱鞘外にステロイドを注射しても、同程度の治療効果が得られることが分かってきています。

当院では、ばね指に対してまず指のギプス固定を行っています。ロッキングする症例や、ギプス固定で改善しない症例には、エコーガイド下にステロイド注射を行っています。

その際、私自身は「絶対に腱鞘内に入れなければならない」とは考えていません。

むしろエコーを使ってみると、腱鞘内へ入れようとして針を進める過程で、意外に屈筋腱そのものを刺してしまう可能性があることが分かります。

腱鞘内と腱鞘外で治療成績はほぼ同じ

この点については、かなり以前から研究があります。

1998年の研究では、ばね指に対して腱鞘内注射を試みても、実際に薬液がすべて腱鞘内に入っていたのは37%に過ぎませんでした。

46%では腱鞘内と皮下の両方、17%では腱鞘内には全く入っていませんでした。

ところが治療効果を見ると、腱鞘内に確実に入った群が特に優れていたわけではなく、むしろ皮下にのみ注射された群でも良好な成績が得られていました。研究者は、真の腱鞘内注射には明らかな優位性がないと結論しています。

その後、エコーを使って注射位置を正確に確認した研究でも同じ結果が得られています。

2016年の前向き研究では、真の腱鞘内注射と真の腱鞘外注射を比較しましたが、症状改善率、再発率、A1 pulleyや屈筋腱の厚さの変化に有意差はありませんでした。

さらに166例を対象とした無作為化試験では、エコーガイド下に腱鞘内または腱鞘外へステロイドを注射し比較したところ、最終的に両群とも94%が無症状となり、両群間に差はありませんでした。

最近の無作為化比較試験をまとめたシステマティックレビューでも、腱鞘内か腱鞘外かという注射位置は治療成績を大きく左右しないとされています。

なぜ腱鞘の外でも効くのか

ばね指の主病変はA1 pulley周辺にあります。

ステロイドには強い抗炎症作用がありますから、薬液がA1 pulley周囲に到達すれば、必ずしも腱鞘内に完全に入らなくても周囲組織へ作用すると考えられます。

実際、超音波研究では、腱鞘外注射でもA1 pulleyの厚さが減少しており、局所組織に十分な作用が及んでいることが示されています。

したがって、

「腱鞘内に入らなかったから注射は失敗」

とは考えなくてもよさそうです。

むしろ避けたいのは腱実質内注射

一方、最も避けたいのは、屈筋腱そのものへのステロイド注入です。

ステロイドを腱実質内へ直接注射すると、腱組織への悪影響が懸念されます。実際、ばね指へのステロイド注射後に屈筋腱断裂を生じた症例が報告されています。

ただし、これは非常にまれな合併症で、報告の多くは症例報告です。

例えば、トリアムシノロン40mg/mLを含む局所注射を5回受けた後に深指屈筋腱断裂を生じた症例が報告されています。

日本からも、ばね指へのトリアムシノロン注射後の長母指屈筋腱や深指屈筋腱断裂の症例が報告されています。

このような症例から考えると、ステロイド注射では「腱鞘内に正確に入れること」以上に、「腱実質内へ注入しないこと」が重要ではないかと思います。

エコーを使わない注射では意外に腱を刺している

この点で興味深いのが、2023年に発表された屍体研究です。

エコーを使用しない3種類のばね指注射法を比較したところ、腱実質内に色素が入った割合は、

掌側から骨まで針を進める方法 20%
掌側から腱上へ注射する方法 10%
mid-axial法 0%

でした。

症例数は各20指と少なく、群間差も統計学的には有意ではありませんでしたが、「抵抗がなくなったから腱鞘内に入った」と考えているだけでは、実際には腱内へ注射している可能性があることを示す興味深い結果です。

なお、この研究では腱鞘内に完全に注射できた割合も、方法によって30~75%とかなり違っていました。つまり、エコーを使用しない場合、術者が思っている場所と実際の注射位置が一致しているとは限りません。

エコーガイド下注射の利点

当院では、ステロイド注射を行う場合はエコーを使用しています。

エコーを使えば、

屈筋腱
A1 pulley
腱鞘
針先
注入された薬液

をほぼリアルタイムで確認できます。

そのため、「腱鞘内へ確実に入れる」という目的よりも、むしろ「腱を避けながらA1 pulley周囲へ安全に薬液を届ける」という意味で有用だと考えています。

注射回数は何回まで?

「ばね指へのステロイド注射は3回まで」といった回数制限が語られることがあります。

しかし、「3回を超えたら突然危険になる」という明確な境界が医学的に確立されているわけではありません。

一方で、頻回注射や高濃度ステロイド投与後の腱断裂症例が報告されているのも事実です。したがって、安全な注射回数を一律に決めることも、逆に「腱実質を避ければ何回でも問題ない」と考えることも、現時点では根拠が十分ではありません。

反復注射が必要になる場合には、薬剤、濃度、注射間隔、患者の手の使用状況、糖尿病の有無なども含めて判断する必要があります。

腱鞘周囲に入れば十分ではないか

ばね指のステロイド注射では、腱鞘内に薬液を正確に入れることが長く重視されてきました。

しかし現在の研究を見ると、A1 pulley周囲への腱鞘外注射でも、腱鞘内注射とほぼ同等の効果が得られています。

その一方で、屈筋腱実質内へのステロイド注射はできるだけ避けるべきです。

私自身は、

「腱鞘内へ何としても入れる」

ことより、

「エコーで腱を確認し、腱実質を避けながらA1 pulley周囲へ確実に薬液を届ける」

ことの方が重要ではないかと考えています。

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