膝の変形性関節症(膝OA)の患者さんを診ていると、単純X線ではほぼ同程度の変形に見えるのに、強く痛がる人と、ほとんど痛みを訴えない人がいます。
日常の活動量にも大きな差がないのに、症状がかなり違うことも珍しくありません。
このような場合、「痛みに弱いから」「動きすぎたから」と説明したくなることがありますが、それだけでは十分ではありません。
レントゲンの変形と痛みは必ずしも一致しない
膝OAでは、関節裂隙の狭小化、骨棘、軟骨下骨硬化などを単純X線で評価します。
しかし、これらの画像所見の程度と、患者さんが感じる痛みの強さは必ずしも一致しません。
X線でかなり変形していてもほとんど痛くない人がいる一方、変形が軽度でも強い疼痛を訴える人がいます。
この違いには、単純X線では見えない局所病変と、患者ごとの「痛みの感じやすさ」の違いが関係していると考えられています。
X線では見えない痛みの原因
膝OAの痛みには、滑膜炎、関節水腫、骨髄病変、軟骨下骨病変などが関与します。
これらは単純X線では十分に評価できません。
つまり、X線上の変形が同程度でも、
「現在どの程度炎症があるのか」
「骨髄病変があるのか」
「関節内でどの程度侵害刺激が続いているのか」
によって痛みは変わります。
同じようなレントゲンでも症状に差が出る理由の一つです。
痛みそのものを感じやすくなっている場合がある
もう一つ重要なのが、疼痛閾値の低下です。
膝OA患者の中には、同じ程度の刺激でも痛みを強く感じるようになっている人がいます。
研究では、X線変化が比較的軽いにもかかわらず疼痛が強い患者では、膝周囲だけでなく離れた部位でも圧痛閾値が低下していることが報告されています。
また、同じ刺激を繰り返すと痛みが次第に強くなる「時間的加重」が強いこともあります。
こうした変化には、末梢感作や中枢感作が関与すると考えられています。
末梢感作と中枢感作とは
末梢感作とは、関節周囲の組織が炎症や刺激を繰り返し受けることで、痛みを感じる神経が過敏になる状態です。
一方、中枢感作は、脊髄や脳など中枢神経系で痛みの情報が増幅されやすくなった状態です。
このような状態になると、以前なら痛くなかった程度の荷重や日常生活動作でも、強く痛みを感じるようになることがあります。
したがって、
「同じレントゲンなのに、この人だけ痛がる」
という現象は、単なる性格や我慢強さの違いでは説明できません。
「動きすぎ」が原因なのか
活動量が多かったあとに痛みが強くなることは、もちろんあります。
しかし、
「活動しすぎたために疼痛閾値が下がった」
という単純な因果関係が十分に証明されているわけではありません。
むしろ、滑膜炎や関節水腫、骨髄病変などによる侵害刺激が持続し、その結果として末梢感作が起こり、さらに中枢で痛みが増幅されている、と考える方が現在の知見には合います。
また、痛みが強いために活動量が減っているという、逆の因果関係も考える必要があります。
「動きすぎによる一時的な痛み」と「慢性化した痛み」は違う
同じ膝痛でも、病態は同じとは限りません。
たとえば、普段より長く歩いた翌日に痛みが強くなる場合は、一時的な負荷増加による痛みの可能性があります。
一方で、侵害刺激が繰り返され、疼痛閾値が低下している場合には、通常の日常生活動作でも痛みを感じやすくなります。
この両者は、同じ「膝が痛い」という訴えでも、背景にある仕組みが異なる可能性があります。
画像だけで痛みを判断してはいけない
膝OAでは、単純X線は重要な検査です。
しかし、X線だけを見て、
「これくらいの変形ならそんなに痛くないはず」
「もっと変形している人でも痛くない」
と判断するのは適切ではありません。
画像所見に加えて、
- 関節水腫や滑膜炎の有無
- 局所の圧痛
- 荷重時痛
- 夜間痛
- 可動域
- 筋力
- 痛みの広がり
- 疼痛感受性
などを総合的にみる必要があります。
まとめ
膝OAでは、レントゲン上の変形の程度と痛みの強さは必ずしも一致しません。
その理由として、
単純X線では見えにくい局所病変と、
患者ごとの疼痛感受性の違い
の両方を考える必要があります。
特に、滑膜炎、関節水腫、骨髄病変などの侵害刺激が続くことで末梢感作が起こり、さらに中枢感作によって痛みが増幅されることがあります。
したがって、同程度の膝OA画像で痛みに差がある場合、「動きすぎ」「痛みに弱い」という一言で片づけず、痛みの背景にある病態を分けて考えることが大切です。

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