腰椎傍脊椎神経ブロックは、トリガーポイント注射より少し深く刺せば算定できるのか?

腰痛に対する注射療法では、トリガーポイント注射と腰椎傍脊椎神経ブロックが混同されることがあります。

令和8年度の診療報酬では、L100の「頸・胸・腰傍脊椎神経ブロック」は90点です。トリガーポイント注射よりやや高いためか、「腰の圧痛部に少し深く刺せば腰椎傍脊椎神経ブロックとして算定できる」と考えている医療機関もあるようです。

しかし、両者は本来、刺入の深さで区別する手技ではありません。診療報酬上も腰椎傍脊椎神経ブロックは独立した「神経ブロック」として位置づけられています。

トリガーポイント注射との違い

トリガーポイント注射は、疼痛の原因となっている圧痛点や筋・筋膜のトリガーポイントに局所麻酔薬などを注射する手技です。

一方、腰椎傍脊椎神経ブロックは、単に「筋肉の深いところへ注射する」手技ではありません。

傍脊椎部で脊髄神経やその近傍を標的として局所麻酔薬を作用させ、神経伝導を遮断することを目的とする神経ブロックです。

したがって、

「トリガーポイント注射より針を1~2cm深く入れた」

というだけで腰椎傍脊椎神経ブロックになるわけではありません。

重要なのは、どの神経・どの解剖学的部位を標的として、何を目的に注射したのかです。

腰椎傍脊椎神経ブロックの適応は?

腰椎傍脊椎神経ブロックについて、外来腰痛患者に対する適応を一律に定めた明確な国内基準は乏しいようです。

海外では、腰椎椎間板障害や脊椎症に伴う神経根性疼痛に対して、局所麻酔薬とステロイドを用いたparavertebral blockadeを追加し、急性疼痛の軽減が得られた報告があります。

また、腰椎術後に遺残したL4・L5領域の根性痛に対し、超音波ガイド下腰椎傍脊椎ブロックを行って疼痛が改善した症例報告もあります。

したがって、少なくとも文献上は、

神経根性腰下肢痛
腰椎疾患に伴う神経性疼痛
術後に遺残した根性痛

などが主な対象として考えられます。

単純な筋性腰痛の圧痛点へ局所麻酔薬を注射するだけなら、神経ブロックというよりトリガーポイント注射として考える方が自然です。

何mL注射すれば腰椎傍脊椎神経ブロックになるのか

ここが実務上かなり曖昧なところです。

診療報酬には、

「○mL以上使用すれば腰椎傍脊椎神経ブロック」

という規定はありません。

しかし、傍脊椎ブロックは本来、一定の解剖学的スペースや神経周囲へ局所麻酔薬を拡散させて効果を得る手技です。

胸部傍脊椎ブロックなどの麻酔領域では、比較的まとまった量の局所麻酔薬を用いる方法が一般的です。超音波ガイド下傍脊椎ブロックの解説でも、コンパートメントブロックであるため局所麻酔薬の1回投与量が比較的多いことが指摘されています。

一方、外来で行う腰椎傍脊椎神経ブロックについて、「標準的には何mL」と断定できる国内資料は乏しいようです。

したがって、薬液量だけで算定可否を決めることはできません。

ただし、腰の圧痛点に局所麻酔薬を1mL程度筋肉内注射し、それを「腰椎傍脊椎神経ブロック」と呼ぶのであれば、手技の実態として本当に神経ブロックなのか疑問が残ります。

エコーや透視は必要なのか

診療報酬上、腰椎傍脊椎神経ブロックについて、超音波やX線透視の使用は必須要件とはされていません。したがって、解剖学的ランドマークを用いた従来法でも、適切な神経ブロックとして行われていれば算定は可能と考えられます。

ただし、腰椎傍脊椎部には神経根、血管、硬膜外腔、くも膜下腔などが近接しています。

近年は超音波ガイド下で標的部位を確認して行う方法も報告されており、術後根性痛に対する症例報告では、事前にX線画像で穿刺経路を設計し、リアルタイム超音波下にL4・L5傍脊椎ブロックを行っています。

つまり、

「エコーを使わないと算定できない」

わけではありませんが、

「神経の位置を意識せず、腰背部の深いところに注射しただけ」

というのも本来の神経ブロックとは違います。

注射後は何を確認すべきか

神経ブロックとして行う以上、注射後には局所麻酔薬による作用と合併症を考える必要があります。

特に、

下肢の知覚変化
筋力低下
血圧低下
血管内誤注入による局所麻酔薬中毒
硬膜外・くも膜下への誤注入

などには注意が必要です。

したがって、注射後すぐに患者を帰宅させるというより、少なくとも神経学的変化や全身状態に異常がないことを確認してから帰宅させるのが安全でしょう。

「神経ブロック」として算定しているにもかかわらず、注射後の神経学的確認もなく、通常の筋肉内注射と全く同じ扱いというのであれば、手技の実態との整合性は考える必要があります。

腰神経叢ブロックや神経根ブロックとは別の手技

なお、腰椎傍脊椎神経ブロックは、腰神経叢ブロックや神経根ブロックとは別項目です。

令和8年度では、

腰椎傍脊椎神経ブロック 90点
腰神経叢ブロック 570点
神経根ブロック 1,500点

と大きく点数が異なります。

つまり、同じ腰椎周囲への注射であっても、標的とする解剖学的部位と手技の難易度が異なります。

「腰椎の横に注射した」というだけで、これらを自由に選択できるわけではありません。

診療録には何を書くべきか

腰椎傍脊椎神経ブロックとして算定するのであれば、少なくとも診療録から、

どのレベルを標的にしたのか
どのような症状に対して行ったのか
どの薬剤をどの程度使用したのか
神経ブロックとしてどのような効果を期待したのか

が分かることが望ましいでしょう。

単に、

「腰部圧痛あり。局注」

という記載だけでは、トリガーポイント注射との区別は困難です。

まとめ

腰椎傍脊椎神経ブロックは、トリガーポイント注射より「少し深く刺す注射」ではありません。

神経またはその周囲を解剖学的に標的として、局所麻酔薬によって神経伝導を遮断することを目的とした神経ブロックです。

エコーや透視の使用は診療報酬上必須ではありませんが、単に腰背部の圧痛点へ深く局所注射しただけで90点の腰椎傍脊椎神経ブロックになる、と考えるのは無理があると思います。

診療報酬上の名称ではなく、実際にどのような手技を行ったのかが重要です。

参考文献

Ohashi N, et al. Ultrasound-Guided Lumbar Paravertebral Block After Pre-Designed Route on X-Ray Film for Radicular Pain Following Failed Back Surgery Syndrome: A Case Report.
PubMed

腰椎椎間板障害・脊椎症による根性疼痛に対する傍脊椎ブロックの報告
PubMed

野村岳志.超音波ガイド下神経ブロック(4)体幹の神経ブロックの実際.日本臨床麻酔学会誌 2013;33:612-618.
J-STAGE

厚生労働省 L100 神経ブロック
診療報酬の算定方法

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