ギプス固定と車の運転

骨折や腱断裂などでギプスやシーネを装着した患者さんから、

「車を運転してもよいですか?」

と聞かれることがあります。

特に地方では、自動車が生活に欠かせないため、患者さんにとって切実な問題です。

しかし、「ギプスをしているから一律に運転禁止」「左足ならオートマ車なので大丈夫」と単純に判断できる問題ではありません。

ギプスをして運転することを直接禁止する法律はない

道路交通法には、

「ギプス固定中は自動車を運転してはならない」

という直接的な規定はありません。

一方、道路交通法第66条には、

「病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」

と定められています。

したがって問題になるのは、ギプスを着けていること自体ではなく、

「その状態で安全に運転操作ができるのか」

ということです。

左足のギプスならオートマ車は運転できる?

右足でアクセルとブレーキを操作するオートマ車であれば、

「左足は使わないから問題ない」

と思うかもしれません。

しかし、通常運転だけでなく、事故を避けるための急制動、姿勢保持、乗り降り、周囲確認なども含めて考える必要があります。

たとえば左下肢を膝上までギプス固定していれば、運転姿勢が不自然になったり、とっさの身体動作が制限されたりする可能性があります。

そのため、「左足だから必ず運転可能」とは言えません。

上肢のギプスも問題になる

上肢の場合も同じです。

ハンドル操作には両手を使う場面がありますし、

  • 急ハンドル
  • ウインカー操作
  • シフト操作
  • ワイパー操作
  • 駐車時の細かな操作

などが十分にできる必要があります。

片手や手関節をギプス固定していて、通常走行はできたとしても、緊急回避動作が十分にできないのであれば、安全運転上の問題が生じます。

「ギプスで運転すると1点減点」は一律ではない

「ギプスをして運転しているところを警察に見つかると、安全運転義務違反で1点」という話を耳にすることがあります。

しかし、

「ギプスを着けて運転しただけで一律に1点」

という規定ではありません。

実際に正常な運転が困難な状態と判断された場合には、道路交通法第66条などが問題になる可能性があります。

したがって、ギプス装着そのものと交通違反を直接結びつける説明は少し慎重にした方がよいでしょう。

事故を起こした場合、過失割合で不利になることはある?

こちらは十分あり得ます。

ギプス固定によってハンドルやブレーキ操作が制限され、それが事故発生や回避不能に関係した場合には、

「本来なら避けられた事故を、身体機能が制限された状態で運転したため避けられなかった」

と評価される可能性があります。

ただし、

「本来50対50の事故が、ギプスをしていただけで必ず70対30になる」

というような固定したルールがあるわけではありません。

事故の状況、ギプスの部位、機能制限の程度、事故との因果関係などによって個別に判断されます。

重要なのは、ギプス固定そのものより、

「その身体状態が事故にどの程度影響したか」

です。

「ギプスで運転すると保険が出ない」は本当?

これも一律には言えません。

一般的な自動車保険では、無免許運転、酒気帯び運転、薬物によって正常な運転ができない状態などについて、本人の車両保険や人身傷害などが免責となる場合があります。

一方、

「骨折してギプスをしていた」

というだけで、直ちにすべての自動車保険が支払われなくなるわけではありません。

実際の支払可否は、契約している保険の約款や事故状況によって判断されます。

したがって、

「ギプスで運転したら保険は一切出ない」

という説明も正確ではありません。

医師が「運転可能」と診断する必要はあるのか

会社などから、

「車を運転してよいという診断書を書いてください」

と求められることがあります。

しかし、運転免許について最終的な行政判断を行うのは医師ではなく都道府県公安委員会です。

警察庁も、身体障害や病気が安全運転に及ぼす影響については個別に公安委員会が判断し、必要に応じて免許に条件を付ける場合があるとしています。

そのため、医師が無理に、

「運転可能です」

と保証する必要はないと思います。

診断書には何を書くべきか

たとえば、

「右腓骨遠位端骨折。現在も骨癒合は完成していない」
「右足関節をギプス固定中である」
「右足関節の可動域制限を認める」

など、医学的な事実を記載することはできます。

一方、

「安全に運転できる」
「事故を起こす危険はない」

といった将来の安全性まで医師が保証するのは難しいでしょう。

運転能力に疑問がある場合には、運転免許センターの安全運転相談窓口などで相談する方法があります。

当院ではどう説明するか

手術直後やギプス固定直後には、疼痛、腫脹、麻酔の影響、可動域制限などがあり、普段より運転能力が低下している可能性があります。

そのため、少なくとも手術当日や直後は、自分で運転して帰宅しないように説明するのが安全です。

その後についても、

「日常生活で困らないから運転できる」

ではなく、

「急ブレーキ、急ハンドルなどの緊急回避動作を問題なく行えるか」

まで考える必要があります。

まとめ

ギプス固定中の自動車運転を一律に禁止する法律はありません。

しかし、道路交通法第66条では、病気やけがなどにより正常な運転ができないおそれのある状態での運転は禁止されています。

したがって、

「左足だから大丈夫」
「片手が使えれば大丈夫」

とは単純に言えません。

事故を起こした場合には、ギプス固定による機能制限が事故や回避動作に影響したと判断されれば、過失評価で不利になる可能性もあります。

また、医師が運転の安全性を保証する必要はなく、診断書には医学的事実を記載し、最終的な免許上の判断は公安委員会に委ねるのが適切だと思います。

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