骨粗鬆症予防の運動として、「踵落とし」が紹介されることがあります。
つま先立ちになって踵を持ち上げ、そのまま踵を床に落とす簡単な運動です。特別な器具も必要なく、自宅で手軽にできるため、実践している方も多いようです。
先日、骨粗鬆症で通院中の70歳代の男性から、「足の親指の付け根が痛い。外反母趾でしょうか」と相談されました。
レントゲンでは明らかな外反母趾はありませんでした。
詳しく話を聞いてみると、骨を強くするために毎日「踵落とし」を繰り返しているとのことでした。
そこで気になったのが、踵ではなく足の前方です。
踵落としでは、踵を落とす瞬間だけを見ると踵に衝撃が加わるように見えます。
しかし、その前には必ず踵を持ち上げて、つま先立ちになります。
このとき体重は前足部にかかり、母趾の付け根にある第1MTP関節にも繰り返し負荷が加わります。
そのため、この患者さんでは踵落としを繰り返したことが、母趾MTP関節周囲の痛みと関係していた可能性があるのではないかと考えました。
もちろん、この一例だけで「踵落としをすると母趾が痛くなる」とはいえません。
しかし、「踵落とし」という名前から踵ばかりに目が行きますが、実際には足の前方にも負荷のかかる運動だということは知っておいてよいと思います。
では、そもそも骨粗鬆症の人が踵落としをしても大丈夫なのでしょうか。
骨に適度な力を加える運動は、骨の健康を維持するうえで重要です。
実際、海外の骨粗鬆症関連団体でも、踵落としは骨に刺激を与える低衝撃運動の一つとして紹介されています。
したがって、骨粗鬆症だから踵落としをしてはいけない、ということではありません。
重要なのは「どのくらいの強さで行うか」です。
軽く踵を落とすのと、できるだけ強く床へ打ちつけるのとでは、身体に加わる衝撃は違います。
骨粗鬆症が強い人、すでに椎体骨折やほかの脆弱性骨折を起こしている人では、強い衝撃を伴う運動を一律に勧めるべきではありません。
骨粗鬆症の運動についての専門家の提言でも、椎体骨折や複数の脆弱性骨折がある人では、衝撃の強い運動を避け、低衝撃の運動から行うことが勧められています。
「踵落としをして踵骨骨折になった」
「踵落としで脊椎圧迫骨折を起こした」
という話を耳にすることもあります。
しかし、私が調べた範囲では、踵落としが原因となって骨粗鬆症性骨折を起こしたことを明確に示した医学論文は確認できませんでした。
したがって、「踵落としは骨折するから危険」とまでいう根拠はありません。
一方で、骨粗鬆症の運動は踵落としだけではありません。
筋力を保つための抵抗運動、転倒を防ぐためのバランス運動、歩行なども重要です。
特に高齢者では、「骨に衝撃を与えること」だけに注目するより、筋力を維持し、転倒そのものを減らすことも骨折予防には重要です。
骨粗鬆症に良いとされる運動であっても、すべての人に同じ回数、同じ強さで行えばよいわけではありません。
足の関節が痛い人には足への負荷を考える必要がありますし、椎体骨折の既往がある人には衝撃の程度を考える必要があります。転倒しやすい人では、まず安全に行える筋力訓練やバランス訓練の方が重要かもしれません。
予防のための運動で関節を痛めたり、転倒したりしてしまっては本末転倒です。
「骨に良い運動だから、強く、たくさんやればよい」のではなく、自分の骨や関節の状態に合わせて、無理のない強さから行うことが大切だと思います。

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