骨折非観血的整復術の算定が不適切と思われる骨折とは?

骨折の保存療法では、ギプスやシーネ、装具などによる固定が広く行われています。

しかし、骨折を固定したことと、骨折を整復したことは同じではありません。

診療報酬にはK044「骨折非観血的整復術」がありますが、骨折に対して保存療法を行ったからといって、すべての症例で算定できるわけではありません。

例えば、転位のない膝蓋骨骨折に膝装具を装着した場合や、骨性マレット指に対してDIP関節を伸展位で固定した場合などです。

これらは適切な保存療法であっても、実際に骨折部を整復したとは限りません。

今回は、骨折非観血的整復術の算定が不適切と思われる骨折について考えてみます。

1.骨折非観血的整復術とは

骨折非観血的整復術とは、皮膚を切開せず、徒手的な操作などによって骨折部を整復する手術です。

代表的なのは、転位のある橈骨遠位端骨折に対して徒手整復を行い、その後にギプス固定する場合です。

一方、転位のない骨折に対して、整復操作を行わずにギプス固定しただけの場合はどうでしょうか。

ギプス固定は骨折の治療ですが、骨折部の整復を行ったわけではありません。

骨折非観血的整復術は、骨折の保存療法そのものではなく、骨折部を整復する行為に対する診療報酬です。

したがって、骨折名だけではなく、実際にどのような操作を行ったかが重要になります。

2.膝蓋骨骨折

膝蓋骨骨折には、横骨折、縦骨折、下極骨折、粉砕骨折などがあります。

転位の少ない骨折では、装具などを使用した保存療法が選択されます。

一方、転位の大きな横骨折では、大腿四頭筋の牽引によって骨片が離開するため、徒手整復だけで整復位を維持することは容易ではありません。

そのため、転位の少ない骨折では整復操作を行わずに保存療法を選択し、転位の大きな骨折では手術を検討することが一般的です。

例えば、転位のない膝蓋骨骨折に対して膝装具を装着しただけで、骨折非観血的整復術を算定することには疑問があります。

もちろん、実際に徒手整復を行った症例まで否定するものではありません。

3.肘頭骨折

肘頭骨折も、上腕三頭筋の牽引によって骨片が離開することがあります。

転位が少なく、肘関節の伸展機構が保たれている場合には、保存療法が選択されます。

しかし、転位の大きな骨折では、徒手整復だけで整復位を維持することは難しく、手術が検討されます。

保存療法を選択した症例でも、実際には整復操作を行わず、シーネなどで固定するだけの場合があります。

このような症例で骨折非観血的整復術を算定することは、適切とは考えにくいと思います。

4.舟状骨骨折

手舟状骨骨折は、転位が少ない場合にはギプス固定などで治療されます。

一方、転位が大きい場合や不安定な骨折では、手術が検討されます。

舟状骨は手根骨の一つであり、骨折部を徒手的に正確に整復することは容易ではありません。

したがって、保存療法では、整復操作を行わずに固定することが多いと考えられます。

舟状骨骨折にギプスを巻いたという理由だけで、骨折非観血的整復術を算定することには疑問があります。

なお、ここでは手舟状骨骨折について述べていますが、足舟状骨骨折についても、実際に整復操作を行ったかどうかが重要です。

5.肋骨骨折

肋骨骨折は、今回挙げた骨折の中でも、診療報酬上の取扱いが比較的明確です。

一般的な肋骨骨折では、徒手整復を行うことはほとんどありません。

疼痛管理を中心とした保存療法が行われ、必要に応じて固定を行います。

支払基金・国保の全国統一事例では、肋骨骨折に対する骨折非観血的整復術について、原則として算定を認めないという取扱いが示されています。

通常、肋骨骨折では徒手整復を行わず、固定を行うためです。

固定を行った場合には、J001-3「鎖骨又は肋骨骨折固定術」が該当します。

これは、骨折の固定と整復が異なる行為であることを示す、分かりやすい事例です。

参考:支払基金・国保の全国統一事例

6.剥離骨折

剥離骨折は、腱や靱帯などの牽引によって、骨の一部が引き剥がされる骨折です。

転位の少ない剥離骨折では、整復操作を行わず、装具やシーネなどによる固定だけで治療することが少なくありません。

特に、手指の剥離骨折は、整復と固定の違いを考えるうえで分かりやすい例です。

① 中節骨基部の剥離骨折

PIP関節の過伸展によって、中節骨基部掌側に剥離骨折が生じることがあります。いわゆる掌側板付着部の剥離骨折です。

骨片の転位が少なく、関節が安定している場合には、PIP関節を軽度屈曲位に保持する装具やシーネなどで治療することがあります。

しかし、PIP関節を軽度屈曲位で固定したことと、骨折部を徒手整復したことは同じではありません。

整復操作を行わず、単に関節を一定の肢位で固定しただけであれば、骨折非観血的整復術を算定することには疑問があります。

一方、PIP関節の脱臼や亜脱臼を伴い、実際に整復操作を行った場合は別に考える必要があります。

② 骨性マレット指

骨性マレット指は、末節骨基部背側に生じる剥離骨折です。

転位が少なく、DIP関節の掌側亜脱臼を伴わない場合には、DIP関節を伸展位に保持する装具などで保存療法を行うことがあります。

しかし、DIP関節を伸展位で固定しただけで、骨折非観血的整復術を算定することが適切なのかは疑問です。

もちろん、DIP関節を伸展させることによって、骨片の位置関係が改善する場合はあります。

したがって、関節を伸展させる操作が、骨折部の整復に相当する症例も考えられます。

しかし、単にDIP関節を伸展位に保持したというだけで、すべての骨性マレット指に骨折非観血的整復術を算定することには無理があると思います。

特に、整復操作を行わず、実際の治療が固定だけであれば、整復術として算定する根拠は乏しいと考えます。

③ その他の剥離骨折

足関節外果の剥離骨折などでも、転位が少ない場合には装具やギプスなどで固定するだけのことがあります。

一方、骨片が大きく転位している場合には、徒手整復が難しく、手術が必要になることもあります。

剥離骨折は、部位や骨片の大きさによって病態が大きく異なります。

したがって、剥離骨折だから一律に算定できないということではありません。

重要なのは、実際に整復操作を行ったかどうかです。

7.踵骨骨折

踵骨骨折には、関節内骨折、関節外骨折、踵骨隆起の剥離骨折などがあります。

転位の少ない骨折では、固定や免荷などによる保存療法が選択されます。

このような症例では、整復操作を行わないことも少なくありません。

一方、転位のある踵骨骨折では、非観血的な整復操作が行われる場合もあります。

また、踵骨隆起の剥離骨折では、アキレス腱の牽引によって骨片が転位することがあり、手術が必要になる場合があります。

したがって、踵骨骨折についても、骨折名だけで骨折非観血的整復術の算定が適切かどうかを判断することはできません。

単に固定や免荷を指示しただけなのか、実際に骨折部を整復したのかを区別する必要があります。

8.鎖骨骨折

鎖骨骨折も、整復と固定の違いを考えるうえで興味深い骨折です。

鎖骨骨折では、徒手整復を試みる場合がありますが、転位が少ない骨折では、整復操作を行わずにクラビクルバンドなどで固定することがあります。

この場合、単に固定しただけで骨折非観血的整復術を算定することには疑問があります。

一方、実際に徒手整復を行った場合は、整復術の算定を検討することになります。

なお、鎖骨骨折にはJ001-3「鎖骨又は肋骨骨折固定術」という別の算定項目があります。

したがって、鎖骨骨折では、整復術と固定術を区別することが特に重要です。

9.固定肢位を工夫することは整復なのか?

今回挙げた骨折に共通する問題があります。

それは、関節を一定の肢位に保持することを、骨折部の整復とみなしてよいのかという問題です。

例えば、次のような治療です。

  • 中節骨基部の剥離骨折に対して、PIP関節を軽度屈曲位で固定する。
  • 骨性マレット指に対して、DIP関節を伸展位で固定する。
  • 膝蓋骨骨折に対して、膝関節を伸展位で固定する。
  • 肘頭骨折に対して、肘関節を一定の角度で固定する。

これらは、骨折部に加わる牽引力を減らしたり、骨片の転位を防いだりするための治療です。

場合によっては、固定肢位を調整することで骨片の位置関係が改善することもあります。

しかし、骨折部の転位を防ぐことと、すでに生じている転位を整復することは異なります。

関節を適切な肢位で固定することは、保存療法として重要です。

だからといって、それだけで骨折非観血的整復術を算定できるとは限りません。

この区別が曖昧になると、単なる固定でも整復術を算定できることになってしまいます。

10.骨折非観血的整復術を算定するために必要なこと

私が重要だと考えるのは、骨折名ではなく、実際にどのような操作を行ったかという点です。

例えば、転位のある橈骨遠位端骨折に対して徒手整復を行い、その後にギプス固定した場合には、骨折非観血的整復術の算定は自然です。

一方、転位のない骨折に対して、整復操作を行わずにギプス固定しただけの場合には、整復術を算定する根拠は乏しいと思います。

また、診療録に「徒手整復」と記載してあれば、それだけで算定できるということでもありません。

当然ですが、実際に整復操作を行ったことが前提です。

なお、整復前後の画像で骨片の位置が変化していないからといって、直ちに整復術を算定できないわけではありません。整復を試みても十分な整復が得られない場合もあるためです。

重要なのは、実際に整復を目的とした操作を行ったかどうかだと考えます。

11.まとめ

骨折非観血的整復術は、骨折の保存療法全般を評価する診療報酬ではありません。

あくまでも、骨折部を非観血的に整復する行為に対する評価です。

今回挙げた膝蓋骨骨折、肘頭骨折、舟状骨骨折、肋骨骨折、剥離骨折、踵骨骨折、鎖骨骨折では、整復操作を行わずに保存療法を選択することがあります。

特に、中節骨基部の剥離骨折に対してPIP関節を軽度屈曲位で固定した場合や、骨性マレット指に対してDIP関節を伸展位で固定した場合などは、整復術と固定の違いを考えるうえで分かりやすい例です。

肋骨骨折については、全国統一事例でも骨折非観血的整復術の算定は原則認められないとされています。

一方、ほかの骨折については、骨折名だけで算定の可否を一律に決めることはできません。

ただし、実際に整復操作を行っていないにもかかわらず、骨折非観血的整復術を算定することには疑問があります。

「骨折を治療したから整復術を算定する」のではなく、「実際に骨折を整復したから整復術を算定する」。

この基本的な区別が重要だと思います。

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