転位の少ない膝蓋骨骨折を保存的に治療していると、早期から膝を動かしても、大きく再転位する例は意外に少ないことを経験します。
これはなぜでしょうか。
横骨折では、大腿四頭筋が近位骨片を上方へ、膝蓋腱が遠位骨片を下方へ引っ張ります。そのため、膝を動かせば骨折部が開いてしまいそうにも思えます。
しかし、膝蓋骨は、大腿四頭筋腱と膝蓋腱の間に単独で存在しているわけではありません。
膝蓋骨の周囲には、内側・外側膝蓋支帯や関節包などの軟部組織があり、これらが骨片を保持しています。膝蓋支帯が保たれていれば、大腿四頭筋の力のすべてが骨折部を引き離す方向に働くわけではなく、その一部は膝蓋支帯を介して遠位側へ伝わります。
したがって、初診時から骨片の転位が少ない骨折では、こうした周囲軟部組織が比較的よく保たれている可能性があります。
膝を曲げたときの膝蓋大腿関節の働きも考える必要があります。
膝を屈曲すると、膝蓋骨は大腿骨の滑車部と接触し、膝蓋大腿関節には圧迫力が加わります。この力が骨折型によっては骨片を安定させる方向に働く可能性があります。
ただし、横骨折では膝屈曲によって骨折部前方が開く方向の力も加わります。そのため、「膝を曲げれば膝蓋骨が大腿骨に押しつけられるので骨折部が安定する」と単純に説明することはできません。
むしろ、もう一つ重要なのは、骨折した瞬間に加わった力ではないかと考えています。
膝蓋骨骨折の受傷時には、転倒などによる強い直達外力や、反射的な大腿四頭筋の収縮などが加わります。これは、保存治療中の日常動作や慎重に行う膝の運動より、はるかに大きな力だった可能性があります。
その大きな外力が加わったにもかかわらず、初診時の骨片転位が数mm以内にとどまっているとすれば、その骨折は、骨折部と周囲の軟部組織を合わせた構造として、もともと比較的安定しているのではないでしょうか。
つまり、「初診時の転位が少ない」という所見は、単に骨片間の距離を表しているだけではなく、膝蓋支帯を含む伸展機構が比較的保たれていることや、その骨折がもともと持っている安定性を反映している可能性があります。
もちろん、すべての転位の少ない膝蓋骨骨折が再転位しないわけではありません。骨折型や骨片の状態などを確認し、治療中もレントゲンで経過をみる必要があります。
それでも、適切に症例を選べば、転位の少ない膝蓋骨骨折では、長期間膝を動かさないことだけが骨折部を守る方法ではありません。
初診時の転位が少ないこと自体が、その骨折の安定性を示す重要な情報の一つなのではないかと考えています。

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