関節注射前の消毒はどうすればよいのか

膝などへの関節内注射で最も避けたい合併症の一つが、化膿性関節炎です。

発生頻度は非常に低いものの、一度起これば関節洗浄手術や長期間の抗菌薬治療が必要になることがあります。

私は、関節注射後の入浴制限以上に、注射をする瞬間の皮膚消毒と清潔操作の方が重要だと考えています。

では、関節注射前にはどのように皮膚を消毒すればよいのでしょうか。

まず、目に見える汚れを落とす

消毒薬は、皮膚が汚れていても同じように効くわけではありません。

血液、体液、泥などの有機物が付着していると、消毒薬の作用が低下することがあります。そのため、皮膚に目に見える汚れがある場合には、まずそれを除去してから消毒することが基本です。

CDCも、侵襲的処置では皮膚消毒後に穿刺部位へ触れないこと、無菌操作を維持することを重視しています。

当院では、アルコールが使用できる患者さんでは、最初にアルコール綿で皮膚表面を清拭しています。

時間に余裕がある場合

処置室などで時間を十分取れる場合、当院では次のようにしています。

まずアルコール綿で皮膚を清拭します。

アルコールが使えない患者さんでは、別の使用可能な消毒薬を選択します。

その後、ポビドンヨード(イソジン)を塗布し、すぐには穿刺しません。

当院ではタイマーを使い、少なくとも1分以上待つことにしています。

これは添付文書上「必ず1分必要」という意味ではなく、十分な作用時間を確保するために当院で安全側に設定している時間です。ポビドンヨード10%製剤には、各種細菌に対して30秒程度の接触でも高い殺菌効果を示したin vitroデータがあります。

十分な時間を置いた後、当院では残ったポビドンヨードを清潔に除去してから穿刺しています。

イソジンを3回塗れば安全性が3倍になるわけではない

「イソジン消毒を3回行う」という方法もあります。

しかし私は、最初に皮膚表面を十分清拭しているのであれば、

「何回塗ったか」

よりも、

十分な量を塗り、必要な作用時間を確保し、その後に汚染しないこと

の方が重要ではないかと考えています。

1回塗ってすぐ穿刺し、それを3回繰り返すより、きちんと消毒して十分な時間を置く方が合理的だと思います。

時間に余裕がない場合

診察室で関節注射を行う場合など、毎回ポビドンヨードを塗布して長く待つことが難しいこともあります。

その場合には、アルコールを含むクロルヘキシジン製剤などを使用する方法があります。

ここで重要なのは、消毒液が十分に乾燥してから穿刺することです。

クロルヘキシジンのエタノール製剤についても、PMDA添付文書では術野消毒後に処置前までに乾燥させるよう注意されています。

アルコールを含む消毒薬では、乾燥前に穿刺する必要はありません。

十分に消毒してから乾燥を待ち、その後に清潔操作で注射する方がよいでしょう。

「アルコールが使えない」と「クロルヘキシジンが使えない」は別

ここも注意が必要です。

アルコールが使用できない患者さんに、アルコールを含まないクロルヘキシジン製剤を使用できることはあります。

しかし、クロルヘキシジンそのものにもアレルギーや、まれながらアナフィラキシーの報告があります。したがって、

「アルコール禁なら必ずクロルヘキシジン」

というわけではありません。

何に対して過敏症があるのかを確認し、適切な製剤を選ぶ必要があります。

消毒した場所には触れない

十分に消毒しても、その後に指で穿刺位置を触れば意味が薄れてしまいます。

穿刺部位を決めるために触診する必要がある場合には、消毒前に位置を決めておくか、消毒後は無菌操作を保つ必要があります。

これは消毒液の種類以上に重要な基本だと思います。CDCも、皮膚消毒後に無菌操作を維持しないまま穿刺部位へ触れないことを推奨しています。

ヒアルロン酸はディスポ製剤を使用する

もう一つ、私が重要だと考えているのが注射薬の準備です。

膝のヒアルロン酸注射では、当院ではプレフィルドシリンジなどのディスポーザブル製剤を使用しています。

薬液を別の注射器へ移したり、複数の薬剤を混合したりすれば、それだけ操作工程が増えます。

操作工程が増えれば、理論上は汚染の機会も増えます。

したがって、特別な理由がなければ、

ヒアルロン酸製剤はそのまま単独で使用する

のが最も単純で安全だと考えています。

局所麻酔薬やステロイドを安易に混ぜない

ヒアルロン酸に局所麻酔薬やステロイドを混合して注射する方法もあります。

しかし私は、通常のヒアルロン酸注射では、安易に薬剤を追加しない方がよいと考えています。

混注する医学的な必要性がある場合には、その目的とメリット、考えられるリスクを患者さんに説明した上で行うのが望ましいでしょう。

特にステロイドの関節内注射では、感染に対してヒアルロン酸単独注射より慎重になる必要があります。

関節注射の感染を少しでも減らすために

関節内注射による感染を完全にゼロにすることはできません。

しかし、

皮膚の汚れを落とす
適切な消毒薬を選ぶ
十分な作用時間を取る
乾燥してから穿刺する
消毒後の皮膚に不用意に触れない
不要な混注や操作を減らす
清潔な針と注射器を1回だけ使用する

といった基本を積み重ねることで、感染リスクをできる限り下げることは可能だと思います。

消毒液を何回塗ったかという形式だけではなく、なぜその操作をしているのかを理解して行うことが大切です。

関節注射後の化膿性関節炎が1例でも減ることを願っています。

よくある質問

イソジン消毒後にアルコール綿で拭き取っていますが、拭き取らないと問題がありますか?

必ずしも拭き取る必要はありません。

ポビドンヨードによる消毒が十分に行われ、必要な作用時間を確保できていれば、皮膚に色が残っていても、それ自体が問題になるわけではありません。

当院では患者さんの衣服などへの着色を避ける意味もあり、十分な作用時間を置いた後にアルコール綿で拭き取ることがあります。

重要なのは、イソジンを塗ってすぐ拭き取らず、まず十分に作用させることです。

イソジンを拭き取るアルコール綿はセッシで持つのでしょうか?

必ずセッシでなければならないとは考えていません。

当院では、看護師が手指衛生を行った上で、素手または清潔な手袋でアルコール綿を取り扱っています。

ただし、消毒済みの穿刺部位を不潔な指で直接触れないことが重要です。

イソジンを塗って1分待っている間に、空中の細菌が皮膚に落ちてきませんか?

理論上、空中を浮遊している細菌や微粒子が皮膚表面に落下する可能性はあります。

しかし、通常の診察室や処置室で、人の出入りが多くなく、清潔な環境で短時間待つ程度であれば、関節注射の感染原因として問題になる可能性はかなり低いと考えています。

空中落下菌を測定する方法として、寒天培地を一定時間開放して菌数を調べる方法がありますが、菌数は部屋の広さ、人の出入り、換気、清掃状態などで大きく変わります。

したがって、「5分なら何個だから安全」と数値で断定するよりも、

「消毒後の穿刺部位に触れない」
「人の出入りの少ない場所で行う」
「必要以上に長時間放置しない」

ことの方が実際的です。

万能つぼに入れたイソジン綿球はどのくらい使えますか?

ポビドンヨード含浸綿球は比較的細菌汚染を受けにくく、メーカー資料では調製後7~14日程度使用可能とされています。

ただし、これは適切に調製・保管された場合の目安です。

当院では、必要量をその日のうちに作り、毎日交換しています。

より厳密に考えれば、個包装された滅菌済みディスポーザブル製品が最も扱いやすいと思います。実際、ポビドンヨードの滅菌済み綿球製品も市販されています。

イソジンが乾く前に注射してはいけないのでしょうか?

皮膚消毒薬は、十分な作用時間を確保して使用することが重要です。

また、消毒液がまだ多量に残っている状態で針を刺すと、針に付着した消毒薬が皮下や深部組織へ持ち込まれる可能性があります。

ポビドンヨードやクロルヘキシジンには組織毒性があることが知られているため、私は十分な作用時間を置き、表面が乾いてから穿刺する方が安全だと考えています。

ただし、

「乾燥前に穿刺すると化学性関節炎になる」

とまで直接証明した臨床データがあるわけではありません。

したがって、ここは

「十分な殺菌時間を確保し、消毒薬を必要以上に深部へ持ち込まないためにも、乾燥してから穿刺する」

と説明するのが適切だと思います。

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