前十字靱帯(ACL)損傷は、若いスポーツ選手に多い外傷として知られています。しかし、高齢者でも転倒やスポーツなどによってACLを損傷することがあります。
若い人ではACL再建術がよく行われますが、高齢者の場合は何歳まで手術を考えるべきなのでしょうか。
60歳代でも再建術は行われている
以前は40~50歳以上になるとACL再建術を避ける傾向がありました。しかし、現在では年齢だけを理由に手術を否定する考え方は一般的ではありません。
2019年のシステマティックレビューでは、50歳以上の468人、470膝に対するACL再建術が検討されています。平均年齢は53.6歳、最高齢は75歳でした。再建靱帯の再手術率は2.7%で、術後の膝機能もおおむね良好でした。
また、60歳以上の患者を対象とした研究では、手術時年齢60~73歳の13人を平均約9.6年間追跡し、全員がスポーツや運動に復帰していました。
75歳での再建術の報告もある
2014年には、75歳の男性医師にACL再建術を行い、良好な結果が得られた症例が報告されています。
したがって、75歳だから手術ができないというわけではありません。
ただし、70歳以上の手術例は少なく、75歳で良好な結果が得られたからといって、すべての75歳の患者さんに手術を勧めるということではありません。
手術を考えるのはどのような患者さんか
ACLは膝の前後方向や回旋方向の安定性に重要な役割を果たしています。
ACLが断裂していても、普通に歩く程度であれば困らない患者さんは少なくありません。
一方、方向転換をしたときや階段を下りるときなどに、膝がガクッと崩れるような不安定感が繰り返し起こる患者さんもいます。
手術を考えるのは、こうした不安定性によって日常生活やスポーツ活動が制限され、リハビリなどの保存療法でも十分に改善しない場合です。
変形性膝関節症がある場合は?
高齢者では、ACL損傷と同時に変形性膝関節症(OA)が存在することもあります。
膝の痛みの主な原因がOAである場合、ACLを再建しても痛みが改善するとは限りません。
特に軟骨の摩耗が進んだ膝では、ACL再建術よりもOAそのものに対する治療を優先すべき場合があります。
また、ACL再建術によって将来のOAの進行を予防できるという確実な根拠もありません。
高齢者では保存療法も重要
ACLが断裂していても、必ずしも手術が必要になるわけではありません。
筋力訓練や動作指導などによって膝の安定性を補い、不自由なく生活できる患者さんもいます。
特に高齢者では、手術後のリハビリに要する期間や負担、全身状態なども考慮する必要があります。
まとめ
ACL再建術には、明確な年齢の上限はありません。60歳代でも手術は行われており、75歳での手術報告もあります。
しかし、重要なのは年齢ではなく、膝の不安定性によってどの程度困っているかということです。
70歳でも活動性が高く、膝の不安定性が強い患者さんでは手術を検討する余地があります。一方、50歳代でも膝の不安定性がなく、日常生活に支障がなければ、必ずしも手術は必要ありません。
ACLが切れているから手術するのではなく、ACLが切れていることで困っているかどうかが、治療方針を決めるうえで重要だと考えます。
Costa GG, et al. Age over 50 years is not a contraindication for anterior cruciate ligament reconstruction. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2019. 50~75歳、468人のシステマティックレビュー。PubMed
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