小児ではなぜ化膿性股関節炎が多いのか?

小児の化膿性関節炎は、股関節と膝関節に多くみられます。

なかでも化膿性股関節炎は、診断の遅れによって関節破壊、骨頭壊死、成長障害、脚長差などを残すことがあるため、整形外科では特に注意する疾患です。

では、なぜ小児では股関節が問題になりやすいのでしょうか。

小児の化膿性関節炎は血行性感染が多い

小児の化膿性関節炎の多くは、血液中に入った細菌が関節へ到達する血行性感染です。

小児では成長骨の骨幹端に血流が豊富で、しかも血流がゆっくりになる毛細血管構造があるため、細菌が定着しやすいと考えられています。

特に乳幼児では、成長軟骨を越える血管が残っているため、骨幹端に起こった感染が骨端や関節内へ広がりやすくなっています。18か月未満では、このtransphyseal vesselが感染拡大の経路になり得ます。

股関節では骨の感染が関節へ波及しやすい

股関節で重要なのは、大腿骨近位部の解剖です。

乳幼児では大腿骨近位部の血行が豊富で、骨幹端や骨端の感染が股関節へ波及しやすい構造があります。股関節の関節包も大腿骨頸部を深く包んでいるため、近接する骨感染と関節感染が関連しやすいのが特徴です。

一方、膝関節も小児化膿性関節炎の好発部位ですが、股関節ほど「骨幹端の感染が関節内へ直接波及しやすい」という解剖学的条件が強くありません。

したがって、「股関節は血流が多いから」だけでなく、乳幼児特有の骨血流と、股関節周囲の解剖学的関係が重なっていると考える方がよいでしょう。

「股関節は密閉されているから菌が増える」は主因ではない

よく、「股関節は深くて関節包が密閉されているので、細菌が繁殖しやすい」と説明されることがあります。

確かに感染後に関節液や膿が貯留すると関節内圧が上昇し、軟骨障害や大腿骨頭の血流障害を起こしやすくなります。

しかし、これは「股関節に感染しやすい理由」というより、感染した後に重症化しやすい理由と考えた方が正確です。

細菌が最初に関節へ到達する主な理由は、やはり血行性感染と乳幼児特有の骨血管構造です。

発熱がなくても化膿性股関節炎は否定できない

化膿性関節炎というと、

「高熱が出て、関節が真っ赤に腫れる」

という印象があります。

しかし、小児の化膿性股関節炎では必ずしも発熱が先に出るとは限りません。

伊勢赤十字病院から報告された小児化膿性股関節炎5例では、2例で下肢痛が発熱より先に出現していました。

3歳女児の症例では、まず右足痛で救急外来を受診しましたが、その時点では発熱がありませんでした。翌日になって発熱し、歩行困難となって化膿性股関節炎が疑われています。

1歳9か月男児でも、下肢痛が先に出現し、その2日後に発熱しています。

さらに1か月女児では、2週間前からおむつ交換時に泣くという症状があったものの、発熱はなく、哺乳も良好でした。股関節を動かさないことからMRIを行い、股関節炎と診断されています。

発熱がない症例は珍しくない

小児化膿性関節炎では、Kingella kingaeなど比較的症状が軽い起因菌では発熱を伴わないことがあります。総説でも、発熱がなくても化膿性関節炎を除外できないとされています。

特に乳幼児では、

歩かなくなった
片脚を動かさない
おむつ交換で泣く
股関節を動かすと強く嫌がる

といった症状だけで始まることがあります。

ですから、「熱がないから単純性股関節炎だろう」と早期に決めつけるのは危険です。

単純性股関節炎との鑑別が難しい

小児の股関節痛で最も頻度が高いのは単純性股関節炎です。

一方、化膿性股関節炎は頻度は低いものの、見逃した場合の影響が大きい疾患です。

発熱、歩行不能、白血球増多、CRP・赤沈上昇などは化膿性股関節炎を疑う材料になりますが、これらがすべてそろうとは限りません。

超音波で関節液貯留を確認し、必要に応じてMRIや関節穿刺まで検討することが重要になります。

小児の化膿性股関節炎で大切なこと

小児では股関節と膝関節が化膿性関節炎の好発部位です。

特に乳幼児の股関節では、骨と関節をつなぐ血流構造のため感染が波及しやすく、診断が遅れると成長障害などの重大な後遺症につながる可能性があります。

そして最も重要なのは、

化膿性股関節炎だから必ず発熱するわけではない

ということです。

発熱がなくても、乳幼児が突然歩かなくなったり、股関節を動かすと強く泣いたりする場合には、化膿性股関節炎を念頭に置く必要があります。

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