外来診療中、高齢の患者さんに「まだ若いのですから、頑張りましょう」とお話しすると、
「先生だけですよ、若いと言ってくれるのは」
という返事がよく返ってきます。
周囲から繰り返し「もう年なんだから」と言われることで、本人まで自分を年寄りだと思い込み、心身の衰えにつながることはないでしょうか。
実は、自分を何歳だと感じているかという「主観年齢」と、健康状態や認知機能、死亡リスクとの関連が研究されています。
主観年齢とは?
主観年齢(subjective age)とは、実際の年齢ではなく、自分自身を何歳くらいだと感じているかという心理的な年齢のことです。
例えば、実年齢が75歳でも、自分はまだ60歳くらいだと感じている人もいれば、85歳くらいだと感じている人もいます。
研究では、実年齢より自分を若いと感じる人ほど、健康状態が良好である傾向が報告されています。
逆に、自分を実年齢より老いていると感じる人では、健康状態の悪化や認知機能の低下、死亡リスクの上昇との関連が指摘されています。
ただし、これらは主に観察研究であり、若いと感じること自体が健康を改善するのか、健康な人ほど若いと感じるのかは、明確には区別できません。
主観年齢と死亡・認知症リスク
主観年齢と健康については、さまざまな研究が行われています。
自分を実年齢より老いていると感じる人は、若いと感じる人に比べて、死亡や認知機能低下のリスクが高い傾向が報告されています。
また、加齢に対する否定的な考え方が、身体活動や健康行動に影響する可能性も指摘されています。
ただし、「年寄りだと思うと認知症になる」「若いと思えば長生きできる」という単純な因果関係が証明されているわけではありません。
重要なのは、自分の年齢に対する認識が、健康状態や日常生活の行動と関連しているという点です。
自分を若いと感じる人は、脳も若い?
韓国の研究では、主観年齢と脳MRI画像との関連が調べられています。
その結果、自分を実年齢より若いと感じている人では、そうでない人に比べて、脳の灰白質の体積が大きい傾向が認められました。
灰白質は、神経細胞の細胞体などが多く存在し、認知機能に重要な役割を果たす組織です。
この研究は、主観年齢と脳の構造との関連を示した興味深い報告です。
ただし、「若いと思うことで脳の萎縮を防げる」と証明した研究ではありません。
「もう年だから」が活動性を低下させる可能性
高齢者が周囲から繰り返し「もう年だから無理しない方がよい」「その年齢では仕方がない」と言われると、どうなるでしょうか。
本人も年齢を理由に、運動や外出、新しいことへの挑戦を控えるようになるかもしれません。
その結果、身体活動量が減少し、筋力や身体機能の低下につながる可能性があります。
年齢に基づく偏見や固定観念は「エイジズム(ageism)」と呼ばれています。
高齢者を必要以上に弱い存在として扱うことも、エイジズムの一つです。
もちろん、加齢による身体機能の変化を無視してよいわけではありません。病状や体力に応じた適切な配慮は必要です。
しかし、実際の身体能力を評価せず、年齢だけを理由に活動を制限することは避けるべきでしょう。
整形外科医として考えること
整形外科の外来では、患者さんから「もう年だから仕方がないのでしょうか」という言葉を聞くことがあります。
しかし、腰痛や膝痛、筋力低下などは、年齢だけで決まるものではありません。
高齢であっても、適切な運動療法や生活習慣の改善によって、身体機能の維持や改善が期待できる場合があります。
私は、患者さんにできるだけ「まだ若いのですから、頑張りましょう」と声をかけるようにしています。
もちろん、励ますだけで病気が治るわけではありません。
それでも、医師の何気ない一言が、患者さんの活動意欲に影響する可能性はあります。
患者さんを若返らせることはできなくても、医師の言葉によって必要以上に老け込ませないことはできるのではないでしょうか。
まとめ
主観年齢と健康状態、認知機能、死亡リスクとの間には、研究上の関連が認められています。
一方で、「年寄りだと思うこと」が直接老化を進めるという因果関係は、まだ十分に証明されていません。
大切なのは、実年齢だけでその人の能力や可能性を決めつけないことです。
「もう年だから仕方がない」ではなく、「今からでも改善できることがある」という視点を持つことが、健康寿命を延ばすためにも重要ではないでしょうか。
参考文献・参考資料
※本記事は主観年齢と健康に関する研究を紹介するものであり、主観年齢を若く保つことによって認知症や死亡を予防できると断定するものではありません。

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