骨は、重力や筋肉による力が加わることで、その強さを保っています。
では、ほとんど重力のない宇宙で何か月も生活すると、骨はどうなるのでしょうか。
宇宙飛行士では、宇宙滞在中に骨量が減少することが知られています。
特に影響を受けやすいのは、地上では体重を支えている股関節や下肢、脊椎などです。
NASAによると、微小重力環境では骨密度が月に平均1~1.5%程度低下することがあり、宇宙飛行による骨量減少は将来の骨折や骨粗鬆症につながる問題として研究されています。
そこで国際宇宙ステーション(ISS)では、宇宙飛行士は積極的に運動を行っています。
その中心となるのが、ARED(Advanced Resistive Exercise Device)という抵抗運動装置です。
宇宙では普通のバーベルを持ち上げても重さを感じません。そこでAREDでは特殊な装置によって抵抗を作り、スクワットやデッドリフトなど、地上での筋力トレーニングに近い運動を行います。
さらにトレッドミルや自転車運動も組み合わせ、栄養やビタミンDなどの管理も行われています。
こうした対策はかなり進歩しており、現在では6か月程度のISS滞在でも、多くの宇宙飛行士で股関節や脊椎の骨密度低下を数%程度に抑えられるようになっています。
それでも、すべての人の骨量減少を完全に防げるわけではなく、個人差もあります。
ここで一つ疑問がわきます。
これだけ急速に骨が減るのであれば、宇宙飛行士は骨粗鬆症性椎体骨折を起こさないのでしょうか。
意外なことに、宇宙飛行による骨量減少そのものについては非常に多くの研究がありますが、宇宙飛行士が宇宙滞在によって骨粗鬆症性椎体骨折を起こしたという臨床例は、ほとんど問題になっていません。
理由の一つは、宇宙飛行士がもともと健康状態を厳しく選抜された集団であることです。
また、これまで長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士の多くは、一般の骨粗鬆症患者ほど高齢ではありません。
有名な例外がJohn Glennです。
1998年、Glennは77歳でスペースシャトルDiscoveryに搭乗し、当時の最高齢宇宙飛行記録を作りました。
しかし、その宇宙滞在は約10日間でした。
では、70歳代の人が国際宇宙ステーションに半年間滞在したらどうなるのでしょうか。
高齢による骨量減少に微小重力による骨量減少が加われば、若い宇宙飛行士より骨折リスクが高くなることは考えられます。
しかし、そのような高齢者が半年間宇宙に滞在したデータはほとんどありません。
将来、月や火星への長期有人飛行が行われ、宇宙へ行く人の年齢層も広がれば、宇宙飛行による骨粗鬆症や脆弱性骨折は、今より現実的な問題になるかもしれません。
もし長期宇宙滞在後に骨粗鬆症性椎体骨折が発生したら、治療はどうするのでしょうか。
地上では、骨折リスクが非常に高い骨粗鬆症患者に対して、テリパラチドなどの骨形成促進薬を使用することがあります。
宇宙飛行によって急速に骨量が減少し、実際に脆弱性骨折まで起こした場合に、こうした薬剤がどのような位置づけになるのかも興味深い問題です。
現在の宇宙医学では、宇宙飛行による骨量減少をいかに予防するかが中心です。
しかし、人類がより高齢になっても宇宙へ行き、さらに長期間滞在する時代になれば、
「宇宙で骨粗鬆症になったらどう治療するのか」
という問題も、いずれ整形外科医が考えなければならない時代が来るのかもしれません。

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