整形外科外来で避けたいNGワード

交通事故の過失割合について、「動いている車同士の事故では、過失割合が0対100になることはない」という言葉を耳にすることがあります。しかし、実際には双方の車が動いていても、一方の過失割合が100%となるケースはあります。したがって、これは交通事故の説明におけるNGワードの一つでしょう。

医療現場にも、同じようなNGワードがあります。

救急外来では「骨折していません」、一般外来では「年だから治りません」などが代表的です。整形外科外来にも、医学的に不正確であったり、患者さんに誤解を与えたりする言葉が少なくありません。

1.「骨折していません」

救急外来で特に注意したい言葉です。

単純X線撮影(レントゲン)で骨折が認められなくても、実際には骨折している場合があります。いわゆる不顕性骨折です。

特に大腿骨頸部骨折、舟状骨骨折、脛骨高原骨折などでは、初回のX線撮影で骨折が確認できないことがあります。

したがって、「骨折していません」と断定するよりも、「今回のレントゲンでは明らかな骨折は認められません」と説明する方が正確です。

症状が続く場合には、再診やMRIなどの追加検査が必要になることもあります。

2.「年だから治りません」

高齢者の膝痛や腰痛などで使われがちな言葉です。

確かに、加齢による関節や脊椎の変性は元に戻らないことがあります。しかし、画像上の変性が治らないことと、痛みが改善しないことは別問題です。

例えば、変形性膝関節症で軟骨がすり減っていても、運動療法や薬物療法などによって症状が改善することは珍しくありません。

「年だから治らない」ではなく、「年齢による変化はありますが、痛みを軽くすることはできます」と説明する方が適切でしょう。

3.「レントゲンで異常がないから大丈夫です」

レントゲンで分かることには限界があります。

骨折や関節の変形などを評価するには有用ですが、靱帯、腱、筋肉、神経などの異常は十分に評価できません。

また、初期の変形性関節症や骨壊死症なども、レントゲンで異常が明らかでないことがあります。

「レントゲンで異常がない」ということは、「病気がない」という意味ではありません。

4.「ただの捻挫です」

捻挫という言葉は、軽いけがという印象を与えがちです。

しかし、捻挫には靱帯の損傷が含まれ、完全断裂など重度の損傷もあります。

また、足関節捻挫と思われた患者さんに、実際には骨折や骨軟骨損傷が認められることもあります。

「ただの」という言葉は、患者さんに過度の安心感を与える可能性があります。

5.「歩けるから骨折していません」

骨折していても歩けることがあります。

転位のない大腿骨頸部骨折や足部骨折などでは、受傷後も歩行可能な場合があります。

歩けることは骨折の可能性を低くする判断材料になる場合もありますが、それだけで骨折を否定することはできません。

特に高齢者では、歩行可能であっても骨折を疑う必要があります。

6.「ヒビだから大したことはありません」

患者さんに分かりやすく説明するために「ヒビ」という言葉を使うことがあります。

しかし、ヒビも骨折です。

骨折の重症度は、骨折線が細いかどうかだけでは決まりません。骨折部位、転位、関節面への影響、骨折の安定性などによって異なります。

ヒビだから必ず軽症とは限らず、適切な治療や経過観察が必要です。

7.「骨はくっついたので治っています」

骨折の治癒と、機能の回復は必ずしも一致しません。

骨癒合が得られていても、関節拘縮、筋力低下、疼痛などが残ることがあります。

特に関節周囲の骨折では、骨癒合だけでなく関節可動域や日常生活動作の回復も重要です。

「骨はくっついていますが、機能の回復にはもう少し時間がかかります」と説明する方が適切な場合があります。

8.「ヘルニアがあるから痛いんです」

MRIで腰椎椎間板ヘルニアが認められても、それが必ずしも症状の原因とは限りません。

無症状の人にも椎間板ヘルニアや椎間板変性が認められることがあります。

診断には、症状の分布、神経学的所見、画像所見などの整合性が重要です。

画像で異常が見つかったことと、その異常が痛みの原因であることは区別する必要があります。

9.「軟骨がすり減っているから痛いんです」

変形性膝関節症などでよく使われる説明です。

確かに軟骨の摩耗は変形性関節症の特徴ですが、関節軟骨そのものには通常、痛みを感じる神経がありません。

痛みには滑膜炎、軟骨下骨の変化、関節包など、さまざまな組織が関与しています。

また、レントゲンで変形が強くても痛みが少ない患者さんがいる一方、変形が軽くても強い痛みを訴える患者さんもいます。

「軟骨がすり減っているから痛い」という説明だけでは不十分です。

10.「しびれは首(腰)から来ています」

手足のしびれを訴える患者さんでは、頸椎や腰椎の疾患を疑うことが多いでしょう。

しかし、しびれの原因は脊椎疾患だけではありません。

手根管症候群、肘部管症候群、腓骨神経障害などの末梢神経障害や、糖尿病性末梢神経障害なども考える必要があります。

画像上の頸椎症や腰椎変性だけで、しびれの原因を断定することは避けたいものです。

11.「もう手術しかありません」

手術が必要な疾患や病態は確かに存在します。

しかし、変形性関節症や脊椎疾患などでは、保存療法によって症状が改善する場合もあります。

手術の必要性は、画像所見だけでなく、疼痛の程度、機能障害、神経症状、患者さんの希望などを総合して判断します。

ただし、進行性の神経麻痺や一部の重篤な病態では、早急な手術が必要になることもあります。

12.「注射すれば治ります」

整形外科外来では、関節内注射や局所注射などを行う機会が多くあります。

注射によって痛みが軽減することはありますが、それが必ずしも疾患そのものの治癒を意味するわけではありません。

例えば、変形性膝関節症に対する関節内注射では、症状の軽減が主な目的です。

「注射で痛みが軽くなる可能性があります」と説明する方が正確でしょう。

13.「痛くなくなったら来なくていいです」

疾患によっては、痛みがなくなれば通院を終了しても問題ありません。

しかし、骨折や腱損傷などでは、疼痛が軽減しても組織の修復が十分に進んでいない場合があります。

特に骨折では、痛みが軽減していても二次転位などが起こる可能性があり、一定期間の経過観察が必要なことがあります。

痛みの程度だけで通院の必要性を判断しないことが重要です。

14.「MRIで異常がないので気のせいです」

MRIは非常に有用な検査ですが、すべての痛みの原因を明らかにできるわけではありません。

画像で異常が確認できないからといって、患者さんの痛みが存在しないことにはなりません。

痛みには画像検査では評価しにくい要因も関与しています。

検査で異常が認められない場合には、その結果を正確に説明しながら、ほかの原因を検討することが必要です。

15.「様子を見ましょう」

「様子を見る」こと自体は、決して間違った診療ではありません。

整形外科疾患の多くは自然経過で改善することがあり、経過観察は重要な治療方針の一つです。

問題なのは、何を、いつまで、どのように観察するのかを説明しないことです。

例えば、「1週間程度経過を見て、痛みが改善しなければ再診してください。痛みが急に強くなったり、しびれや麻痺が出たりした場合は早めに受診してください」と説明すれば、患者さんも安心して経過を見ることができます。

まとめ

整形外科外来で避けたいNGワードを15個挙げました。

これらに共通するのは、医学的に不確実なことを断定したり、患者さんの訴えを軽視したりすることです。

もちろん、「骨折していません」「手術が必要です」などの言葉を絶対に使ってはいけないという意味ではありません。十分な診察や検査によって確実に判断できる場合には、明確に説明することも必要です。

一方で、医学には不確実な部分も多くあります。特に初診時には診断が確定しないことも珍しくありません。

「分かっていること」と「まだ分からないこと」を区別して説明することが、医師と患者さんの信頼関係を保つうえで重要だと思います。

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