伏在神経ブロックが25点?―「神経幹内注射」とは何なのか

伏在神経ブロック、腓腹神経ブロック、浅腓骨神経ブロックなど、末梢神経を標的として局所麻酔薬を注入する神経ブロックがあります。

現在では超音波を用い、神経そのものを確認しながら神経周囲へ局所麻酔薬を注入することも珍しくありません。

ところが診療報酬点数表を見ると、神経ブロックの種類によって点数にかなり大きな差があります。

そして、個別に名称が掲載されていない神経ブロックについては、

L102 神経幹内注射 25点

で算定することになっています。

名称も点数も、初めて見るとかなり違和感があります。

L100に載っていない神経ブロックはL102になる

神経ブロックはL100に多数列挙されています。

たとえば、大腿神経、坐骨神経、正中神経、尺骨神経、橈骨神経などについては、それぞれ神経ブロックとして点数が設定されています。

一方、L100の注には、

「上記以外の神経ブロック(局所麻酔剤又はボツリヌス毒素使用)は、区分番号L102に掲げる神経幹内注射で算定する」

と明記されています。

つまり、L100に名称がない末梢神経ブロックだから算定不能になるのではなく、L102へ回される仕組みになっています。

そしてL102は25点です。

伏在神経ブロックはどうなるのか

伏在神経は大腿神経の終枝で、膝内側から下腿内側にかけて知覚を支配します。

膝周辺や下腿内側の疼痛、あるいは手術時の区域麻酔などで伏在神経ブロックが行われます。

しかし、伏在神経ブロックはL100の個別項目にはありません。

したがって、現在の点数表をそのまま読む限り、

伏在神経ブロック
↓
L100に個別掲載なし
↓
「上記以外の神経ブロック」
↓
L102 神経幹内注射
↓
25点

ということになります。

これは私の推測だけではありません。

厚生労働省の医療技術評価資料「超音波ガイド下神経幹内注射」には、まさに伏在神経を超音波で描出し、穿刺針を神経近傍へ進める図が掲載されています。

資料では、対象を

「L100・L101(神経ブロック)に掲げられる以外のもの」

と説明しています。

したがって、伏在神経ブロックのような非列挙の末梢神経ブロックがL102の対象になる、という理解でよいと思います。

それにしても25点は安すぎないか

25点ということは250円です。

解剖学的ランドマークだけで行う場合でも末梢神経の走行を理解している必要がありますし、現在では超音波を使用して数mm程度の神経を同定し、血管や神経そのものを避けて針先を神経周囲まで誘導することもあります。

これが25点というのは、現在の実際の末梢神経ブロックの技術的負担と比べると、かなり低い評価に見えます。

実際、厚生労働省に提出された医療技術評価資料では、超音波ガイド下に神経幹内注射を行った場合を350点として評価するよう要望されていました。

その資料には、

「従来、解剖学的な神経の走行に沿って、視診・触診により注射が行われる。超音波画像により神経の走行を視覚的に確認することができるようになるため、安全性・確実性が増す」

とされています。

つまり、「25点では現在の手技を十分に評価できていない」という問題意識は、専門学会側にもあったことになります。

そもそも「神経幹内注射」とは変な名前ではないか

医学的に考えると、「神経幹内注射」という名称には違和感があります。

文字通り読めば、

「神経幹の内部へ針を刺して薬剤を注入する」

ように聞こえるからです。

現在の末梢神経ブロックでは、通常、局所麻酔薬は神経そのものの内部ではなく、神経周囲へ注入します。

意図的な神経内注入は神経障害の危険があり、むしろ避けるべきものです。

では、なぜこんな名称なのでしょうか。

昔は「神経鞘内注射」と呼ばれていた

調べてみると、その由来の一端が分かります。

昭和49年1月22日の厚生省通知には、

「神経鞘内注射の名称を神経幹内注射と改めた」

と明記されています。

つまり、「神経幹内注射」という名称は最近作られたものではありません。

少なくとも1974年以前には「神経鞘内注射」という名称が存在し、それを行政上「神経幹内注射」へ変更したものです。

現在から見ると、どちらも少し奇妙な名称です。

しかし、当時の診療報酬上の用語が、その後半世紀以上にわたって残っていると考えると理解しやすくなります。

「神経幹内」と書いてあるが、実際には神経内へ注射する意味ではない

ここは重要です。

現在の診療報酬上、L102は文字通りの「神経内注射」を意味していません。

なぜなら、L100の注で、

「上記以外の神経ブロックはL102神経幹内注射で算定する」

と明記されているからです。

さらに厚労省の医療技術評価資料でも、伏在神経を超音波で描出し、針先を神経近傍へ誘導する通常の末梢神経ブロックを「神経幹内注射」として扱っています。

したがって、

「神経幹内注射=針を神経の内部へ入れる注射」

ではありません。

現在の診療報酬上は、

「L100・L101に個別掲載されていない、その他の末梢神経ブロックを算定する受け皿」

と理解した方が実態に合っています。

同じ末梢神経ブロックなのに点数差が大きい

ここでさらに疑問が生じます。

たとえば、大腿神経や坐骨神経などはL100に個別に掲載されています。

一方、その枝である伏在神経など、名称が掲載されていない神経ではL102となり、25点になります。

つまり、手技の難易度だけでなく、

「点数表にその神経名が掲載されているかどうか」

によって評価が大きく変わってしまいます。

超音波で2~3mm程度の末梢神経を確認し、血管を避けながら針先を誘導して神経周囲へ薬剤を注入しても、非列挙神経なら25点ということになります。

現在の臨床実態との間には、かなり大きな乖離があるように思います。

なぜ25点のままなのか

これは明確な公式説明を確認できませんでした。

ただし、「神経幹内注射」という名称自体が少なくとも昭和49年から存在し、その前身である「神経鞘内注射」はさらに古いことが分かります。

そのため、現在のような超音波ガイド下末梢神経ブロックが普及するはるか以前に作られた診療報酬上の項目が、そのまま残っているという歴史的事情が大きいのではないかと思います。

これはあくまで推測ですが、少なくとも現在の点数表が最新の超音波ガイド下神経ブロックの技術体系を前提として作られた項目ではないことは確かです。

トリガーポイント注射より安いという不思議

もう一つ興味深いのは、神経幹内注射が25点なのに対し、トリガーポイント注射にはそれより高い点数が設定されていることです。

しかも、通知ではトリガーポイント注射と神経幹内注射は同時算定できないとされています。東京都医師会のペインクリニック向け解説にも、この取扱いが掲載されています。

超音波で伏在神経を同定して神経周囲へ注入する方が、単純な圧痛点への注射より低い評価になることもあるわけです。

診療報酬の点数が、必ずしも現在の手技の難易度だけで決まっているわけではないことを示す一例だと思います。

この問題を解説したホームページはほとんど見当たらない

今回、

「神経幹内注射」
「伏在神経ブロック 神経幹内注射」
「神経幹内注射 由来」
「なぜ神経幹内注射というのか」

などで検索しました。

東京都医師会のペインクリニック解説、医療機器メーカーの診療報酬ページ、診療報酬データベースなどには、L102神経幹内注射25点という記載があります。

しかし、「なぜ神経幹内注射という名称なのか」「伏在神経ブロックがなぜ25点になるのか」「昭和49年に神経鞘内注射から名称変更された」というところまで一連で論じた一般公開の解説ページは、私が確認した範囲では見当たりませんでした。

なお、日本臨床整形外科学会は、令和2年度の医療技術評価提案書で「超音波ガイド下神経幹内注射」の新設を要望しています(整理番号380101)。現行の神経幹内注射25点に対し、超音波で末梢神経を描出して安全かつ確実に行う手技として350点を要望しており、資料には伏在神経を標的とした超音波画像も示されています。
つまり、伏在神経ブロックなどが現行では25点で扱われている一方、その評価が実際の手技負担に見合っていないという問題意識は、学会側からも以前から示されていたことになります。

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000851141.pdf

まとめ

L102「神経幹内注射」は25点です。

現在の点数表では、L100・L101に個別掲載されていない神経ブロックは、原則としてこのL102で算定することになっています。

そのため、伏在神経ブロックもL100に個別掲載されていない以上、神経幹内注射として扱われると考えるのが自然です。

そして「神経幹内注射」という名称は、少なくとも昭和49年に、それまでの「神経鞘内注射」から名称変更された歴史を持っています。

現在の「神経幹内注射」は、文字通り神経の内部へ薬剤を注入することを意味するものではありません。

むしろ、

「点数表に個別掲載されていないその他の末梢神経ブロックを受け止める、古い名称の診療報酬項目」

と理解すると分かりやすいと思います。

伏在神経を超音波で描出して慎重に神経周囲へ注射しても25点。

この点数が現在の末梢神経ブロックの技術を適切に評価しているのかは、検討の余地がありそうです。

本稿は公開されている診療報酬点数表、厚生労働省通知および医療技術評価資料をもとにした解説です。個々の症例の算定可否は、実際の診療内容等によって判断されます。

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