英語のアルファベットはA、B、C、D……と始まります。当たり前すぎて普段は疑問に思いませんが、なぜ最初がAなのでしょうか。
しかも考えてみれば、日本語の五十音も「あ・い・う・え・お」から始まります。
英語ではA、日本語では「あ」。
これは単なる偶然なのでしょうか。
「Aは支え合う形だから」は本当?
「Aは左右対称で、2本の線が互いに支え合っている。だから最初の文字になった」という話があります。
なかなか美しい説明ですが、文字の歴史からみると、これは後世の象徴的な解釈と考えた方がよさそうです。
現在の大文字Aは左右対称ですが、Aの祖先は現在とはかなり違う形をしていました。したがって、現在のAの形から、その文字が最初になった理由を説明することはできません。
Aの祖先は「牛の頭」
アルファベットのAを遡ると、フェニキア文字のAleph(アレフ)に行き着きます。さらにその起源は、牛の頭を表した古代の文字にあると考えられています。
フェニキア文字ではAleph、Beth、Gimel、Daleth……という順序でした。
これがギリシャ文字に取り入れられて、
Aleph → Alpha
Beth → Beta
Gimel → Gamma
Daleth → Delta
となり、さらにラテン文字のA、B、C、Dへとつながっていきました。
「alphabet」という言葉自体も、ギリシャ文字の最初の二文字Alpha+Betaに由来します。
つまり、「なぜAが最初なのか」という問いには、「その祖先であるAlephがすでに最初だったから」と答えることができます。
ところが、さらに一歩進んで「では、なぜAlephが最初だったのか」と尋ねると、はっきりした答えはありません。
「ア」は人間が出しやすい音
ここで文字の歴史から少し離れて、「ア」という音について考えてみます。
「ア」に近い音は、人間にとって非常に発しやすい音です。
口を比較的大きく開け、舌や唇で空気の流れを遮ることなく声を出せば、「ア」に近い母音になります。子音のように、舌先を特定の場所につけたり、唇を閉じたりする複雑な動作を必要としません。
むしろ面白いのは、驚いて「あっ!」、痛くて「あっ!」、医師に口を見せるときも「あー」という点です。
言葉を組み立てなくても自然に出せる音として、「ア」が特別に感じられる理由は確かにあります。
だから「人類にとって最初の音はアだったのではないか」と想像したくなりますが、そこまでは証明されていません。また、「ア」が発しやすいからアルファベットのAが最初になった、という歴史的証拠もありません。
日本語も「あ」から始まる
さらに興味深いことに、日本語の五十音も、
あ・い・う・え・お
か・き・く・け・こ
さ・し・す・せ・そ……
と、「あ」から始まります。
英語のAと日本語の「あ」は、文字の成り立ちも歴史もまったく異なります。
また、現在の五十音の配列には、古代インドの音韻学や悉曇学の影響があると考えられています。したがって、「英語も日本語も、アが人間にとって最も自然な音だから最初になった」と単純に結論づけることはできません。
それでも、アルファベットはA、日本語の五十音は「あ」から始まり、しかも「ア」は人間が比較的自然に発することのできる音です。
偶然として片づけるにしても、なかなか面白い一致です。
Aは「エイ」なのに、appleは「アップル」
もう一つ面白いのは、英語では文字Aの名前を「エイ」と読むのに、単語の中のaは必ずしも「エイ」と発音しないことです。
name、cake、gameなどでは「エイ」に近い音になりますが、apple、cat、hatなどでは日本語の「ア」と「エ」の中間に近い音になります。fatherなどでは「アー」に近い音です。
つまり、文字の名前としての「A」と、文字aが単語の中で表す音とは別のものです。
私たちは英語を習うときに「A=エイ」と覚えますが、Aという文字の歴史を遡ると、「文字の名前」と「アという音」を分けて考える必要があることが分かります。
結局、なぜAから始まるのか?
調べてみると、
「左右から支え合う形だから」
「アが人間にとって根源的な音だから」
といった説明は興味深いものの、Aが最初になった歴史的理由として確認されたものではありません。
文字史から確実に言えるのは、Aの祖先であるAlephが古代の文字配列ですでに最初に置かれており、その順序がAlpha、そしてAへと受け継がれたということです。
ところが、「なぜAlephが最初だったのか」まで遡ると、はっきりした答えはありません。
一方、「ア」が人間にとって発しやすい基本的な音であり、日本語も「あ」から始まるというのは興味深い事実です。
毎日のように目にしているAですが、「なぜAから始まるのか」という単純な疑問にも、数千年の歴史と、今でも分からない部分がありました。

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