「頚が悪いから、めまいがする」
このように説明されることがあります。
実際、「頚性めまい(cervicogenic dizziness)」という言葉は以前から使われています。
では、本当に頚椎の異常によってめまいが起こるのでしょうか。
調べてみると、この問題はそれほど単純ではありません。
頚性めまいという概念自体はありますが、現在でも病態や診断について議論が続いており、「この検査が陽性なら頚性めまい」と診断できる確立した検査はありません。
めまいの国際的な専門学会であるBárány Societyも、頚部の病変や頚部痛とめまいとの間に直接的な因果関係があることを示す証拠は、現時点では十分ではないとしています。
そのため、研究以外の日常診療で使用できる「頚性めまい」の診断基準も、現在のところ示していません。
ここで難しいのは、頚部痛もめまいも非常にありふれた症状だということです。
頚が痛い人が同時にめまいを訴えていても、それだけで「頚から来ためまい」とはいえません。
めまいには、良性発作性頭位めまい症(BPPV)、前庭性片頭痛、内耳の病気など、さまざまな原因があります。
また、高齢になると前庭機能、視覚、深部感覚など複数の機能が低下し、「ふわふわする」「歩くと不安定」といった症状が生じることもあります。
脳血管障害など中枢神経系の病気を見逃してはいけない場合もあります。
したがって、「頚が痛い+めまいがする」というだけで頚性めまいと診断するのではなく、まず他の原因を考えることが重要です。
一方で、頚椎とめまいの関連を示唆する研究がまったくないわけでもありません。
頚椎症とめまいのある145例を対象とした前向き研究では、116例に前方除圧固定術を行い、29例を保存的に治療して1年間経過をみたところ、手術群ではめまいの強さや頻度がより改善したと報告されています。
頚椎不安定性などを対象として、頚椎手術後にめまいが改善したという報告もあります。
しかし、ここは注意が必要です。
「頚椎手術を受けた患者のめまいが改善した」ということと、
「めまいがあるから頚椎手術をすればよい」
ということは同じではありません。
頚椎手術には、頚髄症や神経根症など、それぞれ医学的な手術適応があります。
例えば、歩行が不安定になり、手指の細かな動作が難しくなり、診察でも脊髄症を示す所見があり、MRIでそれを説明できる頚髄圧迫が確認されれば、頚椎手術を検討することがあります。
この場合は「めまいを治すための手術」というより、頚髄症に対する手術です。
反対に、主な症状が「ふわっとする」「ふらつく」といっためまいで、明らかな頚髄症や神経根症が認められない場合はどうでしょうか。
その場合、めまいを頚椎だけで説明してしまう前に、耳鼻咽喉科的な前庭機能の評価や、必要に応じて神経学的な評価を行い、ほかの原因がないかを調べることが重要だと思います。
もちろん、実際の手術適応は診察所見やMRIなどを総合して判断されます。
しかし、
「頚が痛い」
「めまいがする」
「MRIで頚椎に変性がある」
という3つがそろっただけで、
「頚椎が原因のめまいだから手術が必要」
と結論づけるのは慎重であるべきでしょう。
高齢になると、MRIで頚椎の変性が見つかること自体は珍しくありません。
画像上の異常があることと、それが現在の症状の原因であることは別の問題です。
頚性めまいという病態が存在する可能性はあります。
実際、頚椎治療後にめまいが改善したという研究もあります。
しかし現時点では、頚性めまいを確実に診断できる検査はなく、国際的にもその病態や診断基準について意見が一致しているわけではありません。
だからこそ、めまいがあるときには最初から「頚から来ている」と決めつけず、耳、脳、前庭機能など他の原因を十分に検討することが大切です。
頚椎手術を考えるのであれば、さらに重要なのは、
「めまいがあるか」
ではなく、
「頚椎に、手術によって治療すべき病態が本当にあるか」
ということではないでしょうか。

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