半月板は三日月形なのに、なぜ「半月板」と呼ぶのか?

膝の半月板は、スポーツ選手のけがなどでよく耳にする言葉です。しかし、「半月板」という名前を不思議に思ったことはないでしょうか。

半月板は膝関節の内側と外側にあり、大腿骨と脛骨の間でクッションの役割を果たしています。上から見るとC字形に近く、半分だけ光っている半月というより、三日月に似ています。

では、なぜ「三日月板」ではなく「半月板」と呼ぶのでしょうか。

半月板の語源はギリシャ語の「三日月」

半月板は英語で meniscus(メニスカス)といいます。この言葉はギリシャ語の mēniskos に由来し、本来の意味は「小さな三日月」です。

一方、日本語の「半月」は、一般に上弦や下弦の月、つまり月の半分が光って見える状態を意味します。

そう考えると、語源に忠実に訳すなら「半月板」ではなく「三日月板」と呼ぶ方が適切だったのではないでしょうか。

英語のsemilunarは日本語の「半月」と意味が違う?

実は、英語には semilunar という言葉があり、「半月形」だけでなく「三日月形」という意味でも使われています。

semi は「半分」、lunar は「月の」という意味です。直訳すれば「半月形」ですが、英語の辞書には「三日月形」も意味として記載されています。

かつて英語では半月板を semilunar cartilage(半月軟骨)とも呼んでいました。日本医学会の医学用語辞典に関する資料でも、semilunar cartilage と「関節半月」が対応しています。

もしかすると、日本語の「半月板」という名称は、この semilunar を翻訳したことに由来するのかもしれません。ただし、誰がいつこの訳語を採用したのか、歴史的な経緯までは確認できていません。

日本語では「半月」と「三日月」を区別しますが、英語の semilunar は両方の形を含んでいます。

日本語と英語では、月の形を表現する言葉の意味に、微妙な違いがあるようです。

円板状半月板は半月形なのか?

ここで、もう一つ興味深い問題があります。

通常の半月板とは異なり、幅が広く、円板に近い形をした「円板状半月板(discoid meniscus)」というものがあります。

円板状半月板には完全型と不完全型があります。完全型は円板に近い形をしていますが、不完全型では中央に切れ込みがあり、完全な円形ではありません。

では、不完全型は半月形なのでしょうか。

実は、日本人の解剖体を対象とした研究では、不完全型の方が完全型よりも多いことが報告されています。

2004年の研究では、577膝の外側半月板のうち、不完全型が171膝(29.6%)、完全型が21膝(3.6%)でした。

また、2015年の研究でも、437膝のうち不完全型が139膝(31.8%)、完全型が27膝(6.2%)と報告されています。

私も以前、円板状半月板の関節鏡手術を多少経験しました。関節鏡ですから半月板全体を真上から眺めたわけではありませんが、半月の形だと思ったことはありませんでした。

そこで、改めて不完全型のイラストを探してみました。

正常半月板、不完全型、完全型を真上から比較した分かりやすいイラストが、以下のページに掲載されています。

参考図:Discoid Meniscus(Chinmay Gupte)

https://www.chinmaygupte.com/discoid-meniscus

これを見ると、不完全型は満月でも半円でもなく、むしろ幅の広い三日月に近いように思います。

もちろん、形には個体差がありますが、少なくとも円板状半月板の不完全型を見て「半月板」と名付けたわけではないでしょう。

月状骨はラテン語、半月板はギリシャ語

整形外科には、ほかにも月に由来する名称があります。

手首にある月状骨(lunate bone)です。

こちらの lunate はラテン語の luna(月)に由来します。一方、半月板の meniscus はギリシャ語に由来します。

どちらも月の形から名付けられているのに、一方はラテン語、もう一方はギリシャ語に由来しているのです。

普段何気なく使っている医学用語にも、古代ギリシャやローマの人々の発想が残されているのですね。

まとめ

半月板の語源をたどると、「小さな三日月」に行き着きます。

日本語の「半月板」という訳語には、英語の semilunar が関係している可能性がありますが、命名の詳しい経緯は分かっていません。

いずれにしても、私には「半月板」より「三日月板」の方が、その形をよく表しているように思えます。

整形外科医は毎日のように月に由来する医学用語を使っていますが、皆さんは最近、夜空の月を眺めましたか?


参考文献

  1. Kato Y, et al. Discoid lateral menisci in Japanese cadaver knees. Modern Rheumatology. 2004;14:154–159. PMID: 17143666.
  2. Ryu K, et al. Evaluation of the morphological variations of the meniscus: a cadaver study. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy. 2015;23:15–19. PMID: 23873345.
  3. 日本医学会:医学用語辞典WEB版のメンテナンス報告(2021年度)。
  4. Collins English Dictionary:semilunar.
  5. Chinmay Gupte:Discoid Meniscus(正常型・不完全型・完全型の比較図)。

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