アキレス腱断裂と肺血栓塞栓症―膝上ギプスは必要か

アキレス腱断裂は比較的よくみられる外傷ですが、その治療中に肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を発症し、死亡することがあります。肺血栓塞栓症は、主に下肢の静脈に生じた血栓が肺動脈を閉塞する疾患で、突然死の原因となることもあります。

2005年11月、アキレス腱断裂の手術を受けた男性が肺血栓塞栓症で亡くなりました。ご遺族のホームページによると、大腿部までの長いギプスで約3週間固定された後、膝下ギプスに変更され、退院予定だった朝に突然亡くなられたそうです。ご遺族は、同じような悲劇を少しでも減らしたいという思いから、このホームページを開設されています。

また、2004年には39歳女性がアキレス腱断裂の保存的治療中に肺血栓塞栓症を発症して死亡し、裁判になった症例もあります。この患者さんは身長152cm、体重73kg、BMI 31.6で、膝上ギプスで約2週間半固定され、膝下ギプスへの巻き替え直後に急変しました。2008年の仙台地裁判決では、当時の医療水準などを踏まえ、医師の過失は認められませんでした。

この裁判例は、鳥畠康充先生らの論文「肺血栓塞栓症裁判の判決文から見えること―患者救済と法的防御の視点から―」(脈管学、2012年)でも紹介されています。同論文では20件の民事判決を分析し、肺血栓塞栓症は予防策を講じても完全には防げないこと、診断や治療の遅れが重要な争点となっていたことなどが述べられています。

これらの死亡例で私が気になったのは、いずれも膝上ギプスが使用されていたことです。アキレス腱には膝関節をまたぐ腓腹筋が連続するため、膝屈曲位で固定することには理論的な根拠があります。しかし、Trickettらはアキレス腱断裂25例を超音波で評価し、足関節を十分に底屈させれば、膝関節の屈曲・伸展によって断裂端間隙に有意差は生じなかったと報告しています(Foot Ankle Int. 2011)。もちろん、これらの死亡例で膝上ギプスが肺血栓塞栓症の直接の原因だったと断定することはできませんが、膝関節まで固定する必要性については検討する価値があると思います。

もう一つ注意したいのが肥満です。肥満は静脈血栓塞栓症の危険因子の一つであり、下肢の固定や活動性の低下も血栓症の発症に関係します。アキレス腱断裂は珍しい外傷ではありませんが、重大な合併症を生じることがあります。特に肥満などの危険因子を有する患者さんでは、個々の状態に応じた予防策を検討することが重要です。

参考文献

1.鳥畠康充、塩梅修:肺血栓塞栓症裁判の判決文から見えること―患者救済と法的防御の視点から―.脈管学.2012;52:25–29.

2.Trickett RW, et al. Effect of knee position on gap size following acute Achilles rupture. Foot Ankle Int. 2011;32(1):1–4.

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