医療行為によって気胸が起こることがあります。たとえば、胸や背中へのトリガーポイント注射、神経ブロック、中心静脈カテーテル挿入などに伴って気胸が発生することがあります。このような医療行為に伴って生じた気胸を「医原性気胸」といいます。
では、医原性気胸になった場合、その治療に健康保険は使えるのでしょうか。
結論からいえば、医療行為が原因で生じた気胸であっても、原則として健康保険による治療を受けることができます。
医療行為が原因でも健康保険は使える
「医療機関の処置によって起きたのだから健康保険は使えない」と思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
厚生労働省は、第三者の行為によって生じた傷病についても、一般の病気やけがと同様に医療保険の給付対象になるとしています。厚生労働省
したがって、たとえばトリガーポイント注射の後に気胸が生じ、他の医療機関で胸腔ドレナージや入院治療が必要になった場合でも、健康保険を使って治療を受けることができます。
トリガーポイント注射による気胸
トリガーポイント注射は、痛みのある部位などに局所麻酔薬などを注射する治療です。
一般的には比較的安全な治療ですが、胸や背中など肺に近い場所へ注射する場合には、針が胸膜や肺に達して気胸を起こす可能性があります。
日本ペインクリニック学会の「ペインクリニック治療指針」にも、トリガーポイント注射の合併症として、胸背部に施行した場合の気胸が記載されています。実際、日本ペインクリニック学会の有害事象調査でも、トリガーポイント注射による気胸が報告されています。日本ペインクリニック学会
気胸になったら医療過誤なのか?
ここは分けて考える必要があります。
「トリガーポイント注射の後に気胸になった」という事実だけで、直ちに医療過誤になるわけではありません。
気胸はこの治療で知られている合併症の一つです。医療機関に損害賠償責任が生じるかどうかは、単に合併症が発生したかではなく、注射した部位、針の方向や深さ、患者さんの体格などを考慮して、医療行為に注意義務違反があったかなどによって判断されます。
また、治療手技そのものに問題がなかった場合でも、合併症についてどのような説明がなされていたかという説明義務が、別の問題として検討されることがあります。
治療費は誰が負担するのか?
まず患者さんは健康保険を利用して治療を受けることができます。
その後、医療機関側に法的な損害賠償責任があると判断された場合には、患者さんが負担した治療費などが損害賠償の対象になることがあります。
一方、健康保険が負担した部分については別の仕組みがあります。
健康保険法第57条では、第三者の行為によって傷病が生じ、保険者が保険給付を行った場合、保険者は給付した額の範囲で患者さんが第三者に対して持つ損害賠償請求権を取得するとされています。つまり、医療機関側に賠償責任がある場合には、健康保険の保険者から医療機関側などへ求償が行われることがあります。e-Gov 法令検索
このため、「医療事故だから健康保険を使わず、最初からすべて医療機関が自費で支払わなければならない」という単純な仕組みではありません。
慰謝料は必ず支払われるのか?
医原性気胸になったからといって、自動的に慰謝料が支払われるわけではありません。
気胸が既知の合併症として適切な医療行為を行っていても発生し得るものであれば、合併症が起きたという結果だけで医療機関に損害賠償責任が生じるわけではありません。
一方、医療行為に過失があり、その過失によって気胸が生じたと判断された場合には、治療費だけでなく、入通院に伴う損害や慰謝料などが賠償の対象になる可能性があります。
医原性気胸と健康保険のまとめ
医療行為によって気胸が発生した場合でも、原則として健康保険を使って治療を受けることができます。
また、
・医原性気胸になった=医療過誤、ではない
・既知の合併症であっても、医療行為に過失がなかったかは別途判断される
・過失が認められれば、患者さんの自己負担した治療費などが賠償対象になることがある
・健康保険が負担した医療費については、保険者から医療機関側などへ求償されることがある
・慰謝料についても、気胸が生じただけで当然に発生するものではない
というように、健康保険による治療と医療機関の損害賠償責任は分けて考える必要があります。

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