認知症患者の車の運転

認知症の患者さんを診療していると、「車の運転を続けてよいのか」「医師が警察に連絡する必要があるのか」といった問題に直面することがあります。

日本では、認知症と診断されたからといって、医師が自動的に免許を取り消すわけではありません。最終的に免許の継続、停止、取消しなどを判断するのは公安委員会です。

一方で、2014年6月から施行された改正道路交通法により、一定の病気などに該当すると医師が判断した場合、その診察結果を公安委員会に届け出ることができる制度が設けられています。現在の道路交通法101条の6にも、その仕組みが規定されています。

認知症は運転免許に関係する病気の一つ

道路交通法では、認知症は運転免許の取消しや停止などの対象となり得る病気として明記されています。

ただし、「物忘れがある」「軽度認知障害がある」といった段階と、法律上の認知症とでは扱いが異なります。

また、認知症であっても症状や進行度には個人差があります。

そのため、医師の診断だけで直ちに運転免許が失効するわけではなく、公安委員会が必要に応じて診断書の提出を求めたり、臨時適性検査などを行ったうえで判断します。

医師に通報義務はあるのか

原則として、医師に公安委員会への届出義務があるわけではありません。

道路交通法101条の6は、

「届け出ることができる」

と規定しています。

つまり、任意の届出制度です。

ただし、患者さんの認知機能や判断力の低下が著しく、安全な運転が難しいと医師が判断した場合には、本人や家族に運転中止を勧めるだけでなく、状況によっては公安委員会への届出を検討することになります。

医師が届け出ると守秘義務違反になるのか

道路交通法に基づいて適正に届け出た場合、守秘義務違反にはなりません。

道路交通法101条の6第3項には、守秘義務に関する法律の規定は、この届出を妨げるものと解釈してはならないと明記されています。

したがって、

「医師が警察や公安委員会へ連絡したら守秘義務違反になる」

とは一概に言えません。

法律に基づく届出であれば、制度上認められています。

誰に届け出るのか

法律上の届出先は、正確には「警察」そのものではなく公安委員会です。

実務上は警察署や運転免許センターなどが窓口になることがありますが、法的には公安委員会への届出という位置づけです。

警察庁の通達では、医師からの届出を警察署等の窓口や電話で受け付ける場合の具体的な手続きも示されています。

医師が免許を取り消すわけではない

ここは重要です。

医師は、

「認知症なので免許を取り消します」

と決定する権限を持っているわけではありません。

医師の役割は、医学的な診断や運転能力に関係する症状を評価し、必要に応じて公安委員会へ情報提供することです。

その情報をもとに、最終的な行政判断を行うのは公安委員会です。

75歳以上では認知機能検査もある

75歳以上の免許保有者では、免許更新時に認知機能検査が行われます。

また、認知機能の低下が疑われる一定の交通違反があった場合には、臨時の認知機能検査が行われる場合があります。

こうした検査で認知症の疑いが生じれば、医師の診断書提出を求められることがあります。

つまり、認知症患者の運転の可否は、診察室だけで決まるのではなく、医療と運転免許行政の双方で判断される仕組みになっています。

家族が運転をやめさせたい場合

実際の診療では、本人より家族の方が危険を感じていることも少なくありません。

事故を起こした、道に迷うようになった、信号や標識を見落とす、駐車が極端に難しくなった、車体を頻繁にぶつけるようになった、などの変化があれば、運転能力低下を疑う重要な情報になります。

本人が運転中止に納得しない場合には、家族だけで抱え込まず、主治医や運転免許センターの安全運転相談窓口などに相談することが重要です。

「認知症=ただちに運転禁止」と単純ではないが

認知症患者の運転問題は非常に難しいテーマです。

地方では車が生活そのものに直結しており、運転中止によって通院、買い物、社会参加が難しくなることがあります。

一方で、安全な運転が困難になっているにもかかわらず運転を続ければ、本人だけでなく他人の生命にも関わります。

そのため、

「本人が運転したいから続ける」

「家族が心配だから一律に取り上げる」

というだけではなく、医学的評価と公安委員会による制度的判断を組み合わせる必要があります。

まとめ

認知症患者の車の運転について、医師に公安委員会への届出義務があるわけではありません。

しかし、一定の病気等に該当し、安全運転に支障があると医師が判断した場合には、道路交通法101条の6に基づいて公安委員会へ診察結果を届け出ることができます。

この届出は法律上認められており、適正な届出であれば守秘義務違反にはなりません。

最終的に免許の継続、停止、取消しなどを判断するのは医師ではなく公安委員会です。

認知症患者の運転問題では、「病名だけ」で判断するのではなく、実際の認知機能、判断力、運転状況、家族からの情報などを総合的にみることが重要だと思います。

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