大腿骨頚部骨折は、解剖学的には関節内骨折です。ところが、骨接合術を行った場合、診療報酬では通常「K046 骨折観血的手術(大腿)」で算定され、「K073 関節内骨折観血的手術(股)」では算定できないとされています。
なぜ、関節内骨折なのに関節内骨折観血的手術ではないのでしょうか。
この疑問を考えるうえで重要なのは、「関節包の中で起こった骨折」と「関節面そのものの骨折」は、必ずしも同じではないという点です。
1.大腿骨頚部骨折は確かに関節内骨折である
股関節は、大腿骨頭と寛骨臼によって構成されています。
大腿骨頭から大腿骨頚部にかけては、その大部分が股関節包の内部に位置しています。
そのため、大腿骨頚部骨折は一般に関節内骨折に分類されます。
関節内骨折であることは、骨折部の血行や骨癒合にも関係します。大腿骨頚部骨折では骨頭への血流が障害されやすく、偽関節や大腿骨頭壊死などが問題になります。
しかし、関節内骨折であるという解剖学的分類が、そのまま診療報酬上の手術区分を決めるわけではありません。
2.大腿骨頚部骨折では関節面そのものが骨折していない
ここが最も重要な点です。
股関節の関節面は、大腿骨頭の関節軟骨に覆われた部分と、寛骨臼の関節軟骨に覆われた部分です。
一般的な大腿骨頚部骨折では、骨折するのは大腿骨頭と骨幹部をつなぐ頚部です。
骨折部は関節包の内部にありますが、大腿骨頭の関節軟骨面そのものが割れたり、陥没したりしているわけではありません。
つまり、
大腿骨頚部骨折は、関節包内の骨折ではあっても、通常は関節面そのものの骨折ではないのです。
一方、例えば脛骨高原骨折では、膝関節の関節面が陥没したり、段差を生じたりします。
このような骨折では、関節面の形状をできるだけ正確に回復させることが、手術の重要な目的になります。
両者は同じ「関節内骨折」と呼ばれていても、骨折の性質が異なります。
3.関節内骨折観血的手術では何を整復するのか
一般に、関節面に及ぶ骨折の手術では、関節面の段差や陥没を整復し、関節の適合性を回復させることが重要になります。
例えば、次のような骨折です。
- 脛骨高原骨折で、膝関節面に陥没や段差がある場合
- 上腕骨遠位端骨折で、肘関節面が分離している場合
- 橈骨遠位端骨折で、手関節面に段差が生じている場合
- 寛骨臼骨折で、股関節面が骨折している場合
これらでは、骨折部の固定だけでなく、関節面の形状を回復させることが手術の重要な目的となります。
一方、大腿骨頚部骨折の骨接合術では、骨頭と頚部の位置関係を整復し、スクリューなどで固定します。
もちろん正確な整復は重要ですが、通常は関節軟骨面の陥没や段差を整復する手術ではありません。
この違いから、大腿骨頚部骨折の骨接合術は、関節面を整復する関節内骨折観血的手術ではなく、骨折観血的手術として扱うのが合理的と考えられます。
4.関節包を切開したかどうかが決め手ではない
関節内骨折観血的手術という名称から、関節包を切開して関節内を直接観察する必要があると考えるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限らないと思います。
例えば、関節面に陥没がある骨折に対し、透視下で整復して内固定を行う場合があります。
関節包を大きく切開していなくても、実際に関節面の整復を目的として手術を行っているのであれば、関節内骨折観血的手術に該当する余地があると考えます。
逆に、関節包内にある骨折だからという理由だけで、すべてを関節内骨折観血的手術とするのも適切ではありません。
重要なのは、骨折線の位置だけでなく、関節面の損傷の有無と、実際に行った手術の内容です。
5.大腿骨頚部骨折でも例外はあるのか
大腿骨頚部骨折に関節面そのものの骨折が合併している場合は、通常の頚部骨折とは事情が異なります。
例えば、大腿骨頭骨折を合併し、関節面の整復・固定を行った場合です。
このような症例では、関節内骨折観血的手術に該当する可能性を個別に検討する必要があります。
ただし、単に大腿骨頚部骨折の転位が大きい、整復が難しい、あるいは関節包を切開したというだけでは、関節内骨折観血的手術で算定できる根拠にはならないと考えます。
6.診療報酬上の問題として考える
令和8年度の診療報酬には、次の手術区分があります。
- K046 骨折観血的手術
- K073 関節内骨折観血的手術
両者は別の手術区分ですが、名称だけでは適用範囲が十分に明確とはいえません。
特に、医学的な意味での関節内骨折と、診療報酬上の関節内骨折観血的手術を同一視すると、判断を誤る可能性があります。
大腿骨頚部骨折は、その典型例ではないでしょうか。
なお、「関節面そのものの骨折ではない」という説明は、私が考える両手術区分の合理的な解釈です。厚生労働省がK073の適用条件を一律に『関節軟骨面の骨折に限る』と明文化していることを確認したものではありません。
実際の算定にあたっては、手術記録や画像所見に基づき、必要に応じて審査機関に確認することが適切です。
まとめ
大腿骨頚部骨折は、解剖学的には関節内骨折です。
しかし、通常の大腿骨頚部骨折では、関節面そのものが骨折しているわけではありません。
そのため、骨接合術は一般にK046骨折観血的手術で算定され、K073関節内骨折観血的手術とは区別されます。
「関節内骨折」と「関節面の骨折」は同じではない。
この違いを理解すると、大腿骨頚部骨折が関節内骨折でありながら、関節内骨折観血的手術で算定されない理由が分かりやすくなると思います。
参考
骨折観血的手術か関節内骨折観血的手術か
膝蓋骨骨折で関節内骨折観血的手術は算定できるか
本稿は公開されている令和8年度診療報酬点数表等をもとにした解説です。個々の症例の算定可否は、実際の手技内容や審査上の取扱いによって判断されます。

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