下駄を履かないのになぜ「下駄骨折」? 無固定でも骨癒合するのか

今では下駄を履いている人をほとんど見かけなくなりました。それなのに、整形外科では今でも「下駄骨折」という名称が使われています。

下駄骨折は第5中足骨基部の裂離骨折で、現在の分類ではZone 1に相当します。比較的骨癒合しやすい骨折として知られていますが、固定しなくても骨癒合するのでしょうか。また、なぜ下駄を履かなくなった現在でも、この名前が残っているのでしょうか。

名称の由来と歴史、保存療法のエビデンス、偽関節について調べてみました。

なぜ「下駄骨折」と呼ぶのか

昔の日本では下駄が日常的な履物でした。

下駄を履いていて足を内返しに捻ると、第5中足骨基部に付着する短腓骨筋腱や足底腱膜外側束などの牽引によって、骨片が引き剥がされるように骨折することがあります。

そのため、「下駄骨折」「下駄履き骨折」と呼ばれるようになったと考えられています。鼻緒が切れた際に足を捻ったことが由来とする説明もあります。

現在では、下駄を履いていなくても、階段を踏み外したり、段差で足を内返しに捻ったりすることで同じ骨折が起こります。

つまり、下駄がなくなっても、下駄骨折はなくならなかったわけです。

いつから「下駄骨折」と呼ばれているのか

名称の正確な初出は確認できませんでした。

少なくとも1978年の『臨床整形外科』には、第5中足骨基部骨折が「下駄骨折」とも呼ばれることが記載されています。

また、2005年の『JIM』に掲載された「第5中足骨骨折の保存的治療」でも、わが国では古くから「下駄骨折」「下駄履き骨折」と呼ばれてきたと説明されています。

したがって、1978年にはすでに定着していた名称と考えられますが、最初に誰が命名したのかは不明です。

江戸時代にも下駄骨折はあったのか

おそらく、あったと思います。

ただし、江戸時代にはX線検査がありませんから、当時の足部外傷が第5中足骨基部裂離骨折だったかどうかを確定することはできません。

興味深いことに、群馬県内で出土した江戸時代中頃の下駄を検討した報告があります。

その報告では、下駄の台よりも歯の下端部が広く作られていることについて、

「おそらく下駄骨折等を防ぐために工夫されたのであろう」

と考察されています。

もちろん、これは江戸時代の人が下駄骨折という病名を知っていた証拠ではなく、現代の研究者による解釈です。

それでも、下駄を履く生活の中で足を捻る外傷が身近だったことを想像させる興味深い資料です。

外国では何と呼ぶのか

現在の英語では、主に以下の名称が使われています。

  • Zone 1 fracture
  • Fifth metatarsal tuberosity avulsion fracture
  • Pseudo-Jones fracture

日本の「下駄骨折」を説明するためにgeta fractureという表現が使われることもありますが、国際的に一般的な病名ではありません。

また、Dancer’s fracture(ダンサー骨折)という名称もありますが、現在では主に第5中足骨遠位骨幹部の螺旋骨折を指し、下駄骨折とは異なります。

なお、Jones骨折はZone 2に相当し、Zone 1より遠位の骨幹端・骨幹移行部に生じます。血流の乏しい領域を含むため、遷延癒合や偽関節が問題になりやすく、Zone 1とは治療方針が異なります。

下駄骨折は固定しなくても骨癒合するのか

下駄骨折は比較的骨癒合しやすく、ギプスによる厳重な固定が必須とは考えられていません。

2021年に発表されたChoiらのランダム化比較試験では、96例の第5中足骨基部裂離骨折を対象に、硬底靴による疼痛許容範囲内の荷重と短下肢ギプス固定を比較しています。

6か月後の疼痛に有意差はなく、両群とも偽関節は認められませんでした。また、元の活動に復帰するまでの期間は硬底靴群の方が短いという結果でした。

ただし、この研究は完全無固定とギプス固定を比較したものではありません。

さらに、Herterichらによる2021年の系統的レビューでも、Zone 1骨折に対する早期機能的治療は、固定療法と比較して骨癒合成績に明らかな差がなく、社会復帰が早い傾向が報告されています。

このレビューでは、早期機能的治療を疼痛許容範囲内での即時荷重を中心とする治療としており、固定を行わない方法も含まれています。

したがって、典型的なZone 1骨折では、骨癒合のためにギプス固定が必須というわけではありません。

無固定療法の臨床経験

愛知県の福田博司先生から、下駄骨折に対して原則無固定とし、疼痛に応じて荷重を許可する治療を7例に行い、全例骨癒合したとのご経験を伺いました。

歩行時には踵から母趾側に荷重するよう指導し、必要に応じてロフストランドクラッチを使用するそうです。

骨癒合までの期間は長くなるものの、日常生活への支障が少なく、関節拘縮もなく、患者満足度は高いとのことでした。

もちろん7例の経験だけで無固定療法の優位性を判断することはできませんが、早期機能的治療を支持する興味深い臨床経験です。

一方、古東整形外科による第5中足骨基部骨折の初期治療法の検討では、U字ギプス固定による疼痛軽減の有用性が報告されています。

つまり、骨癒合のために固定が必要かという問題と、疼痛軽減のために固定が有用かという問題は分けて考える必要があります。

当院での治療方針

当院では、初期にギプスシーネ固定を行い、疼痛が軽減した段階でアンクルクロスまたはソフラアーチに変更することが多く、固定期間は6週間前後を目安としています。

ギプスシーネは入浴時に取り外せる利点がありますが、靴が履きにくいという欠点があります。

一方、アンクルクロスやソフラアーチは日常生活への支障が比較的少なくなります。

早期から疼痛に応じた荷重を許可しており、固定の主な目的は骨癒合の促進というより疼痛軽減と考えています。

今後は、疼痛の軽い症例では無固定での治療も選択肢になると考えています。

下駄骨折は偽関節にならないのか

下駄骨折でも偽関節になることはありますが、その頻度は低いとされています。

Khanらによる2021年の系統的レビューでは、7研究388例を対象に、保存療法後の偽関節率は1.1%と報告されています。

つまり、約99%では偽関節が認められなかったことになります。

ただし、この数字はギプス固定などを含む保存療法全体の結果であり、完全無固定の場合の偽関節率ではありません。

また、Zone 1骨折では画像上完全な骨癒合が得られなくても、無症候性の線維性癒合となり、臨床的には問題なく経過することがあります。

したがって、画像上の骨癒合と臨床的な治癒は必ずしも一致しません。

無固定で治療した先輩の話

私の整形外科の先輩に、自分自身が下駄骨折を経験した先生がいます。

その先生は、ご自身の骨折を固定せずに経過をみたそうです。

半年ほど痛みが続いたものの、最終的には骨癒合したとのことでした。

もちろん1例の経験ですから、固定しなかったために疼痛が長引いたのかどうかはわかりません。

しかし、下駄骨折は固定しなければ必ず偽関節になるという性格の骨折ではないことを示す経験談です。

一方で、骨癒合が得られても疼痛が長期間続く場合があることにも注意が必要です。

偽関節と紛らわしい副骨

第5中足骨基部には、まれにos vesalianum pedisという副骨が存在します。

これは下駄骨折の骨片や陳旧性骨折の偽関節と間違われることがあります。

一般に、副骨では辺縁が滑らかで皮質化しているのに対し、急性骨折では骨折面が不整で皮質化していません。

また、副骨は両側性に存在する場合があるため、判断に迷う場合には健側のX線撮影が参考になります。

昔の日本人は下駄を履いていたから骨折が多かったのか

下駄は足を内返しに捻るきっかけになり得るため、昔の日本ではこの骨折が日常的によくみられた可能性があります。

しかし、下駄を履いていた時代の日本人に、第5中足骨基部骨折が現在より多かったことを示す疫学データは確認できませんでした。

また、昔の日本人が欧米人よりこの骨折を起こしやすかったという証拠もありません。

したがって、下駄が骨折の原因の一つになっていた可能性はありますが、下駄を履いていたために骨折が多かったとまでは断定できません。

まとめ

下駄骨折という名称は、下駄を履く習慣が一般的だった時代の名残です。

現在ではほとんど下駄を履かなくなりましたが、足を内返しに捻ることで同じ骨折が起こっています。

典型的なZone 1骨折は比較的骨癒合しやすく、偽関節になることはまれです。

また、早期機能的治療でも良好な成績が報告されており、ギプスによる厳重な固定は必須ではありません。

骨癒合のために固定が必要かという問題と、疼痛軽減のために固定が有用かという問題は、分けて考える必要があると思います。


参考文献

1.齋藤篤.第5中足骨骨折の保存的治療.JIM.2005;15:774–778.

2.Khan et al. Acute Fifth Metatarsal Tuberosity Fractures: A Systematic Review of Nonoperative Treatment. PM&R. 2021.

3.Choi et al. Hard-Soled Shoe Versus Short Leg Cast for a Fifth Metatarsal Base Avulsion Fracture. J Bone Joint Surg Am. 2021;103:23–29.

4.Herterich et al. Fifth Metatarsal Fracture: A Systematic Review of the Treatment of Fractures of the Base of the Fifth Metatarsal Bone. Dtsch Arztebl Int. 2021.

5.Os vesalianum pedisに関する症例報告・文献レビュー(2023年)。

第5中足骨基部の裂離骨折は、日本では昔から「下駄骨折」あるいは「下駄履き骨折」と呼ばれています。

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