「骨盤矯正」で骨盤のずれは本当に治るのでしょうか

40歳代の女性が、肩周囲の症状について整形外科を受診されました。話を聞いていると、出産後の骨盤のずれが気になり、「骨盤矯正」と呼ばれる施術を受けているとのことでした。複数回の回数券を購入し、かなりの費用を支払っているそうです。

「出産すると骨盤がずれるので、骨盤矯正をした方がよい」と聞いたことがある方もいると思います。しかし、そもそも「骨盤がずれる」とは、医学的にはどのような状態なのでしょうか。

骨盤矯正は、19世紀末に欧米で成立したオステオパシーやカイロプラクティックなどの手技療法の影響を受けながら、日本で広く使われるようになった言葉と考えられます。しかし、「ずれた骨盤を手で元の位置に戻す」という考え方が、現在の画像診断や生体力学によって十分に証明されているとはいえません。

骨盤の傾きや左右差が施術前後で変化したとする報告はあります。しかし、骨盤は撮影時の立ち方、体幹や骨盤の回旋、下肢の位置などによって、画像上の見え方が変化します。

「治療前には仙骨と腸骨の位置関係がずれていたが、施術によって正常な位置に戻った」ということを、同一条件のCTやX線などで客観的に示した確立した研究は、私が調べた限り見当たりません。

施術の際には、触診や左右の脚の長さなどから、「右の骨盤が前にずれている」「骨盤がねじれている」などと説明されることがあります。しかし、実際に骨盤のどの部分が、どの方向へ何mm、何度ずれているのかを、客観的かつ再現性よく測定する確立した方法があるわけではありません。

これは、「骨盤周囲への徒手療法に効果がない」という意味ではありません。

施術によって症状が軽くなったり、体が動かしやすくなったりすることはあるでしょう。筋緊張の変化、関節や筋肉への徒手刺激による疼痛の軽減、運動による効果など、さまざまな要因が考えられます。

しかし、それを「ずれていた骨盤が正しい位置に戻ったため」と説明することには、別の問題があります。

「骨盤矯正」という名称は、骨盤の位置異常が客観的に存在し、それを手技によって正常な位置へ戻しているような印象を与えます。しかし、その前提が医学的に十分証明されているとはいえません。

特に高額な回数券などを購入して継続的に施術を受ける場合には、「どこが、どのように異常なのか」「何をどのように治療しているのか」「その効果を何によって判定するのか」を確認してみてもよいと思います。

実際に行われている施術内容を表すのであれば、「骨盤矯正」というより、「骨盤周囲への徒手療法」や「運動療法」と呼ぶ方が、医学的には実態に近いのではないでしょうか。

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